本テーマの最終目的は、運動トレーニングはなぜレジスタンス運動による血管内皮機能の低下を予防するのかを明らかにすることである。この点に関して、運動トレーニング継続者は一酸化窒素(NO)の生物学的利用能や微小血管の機能が高いため、上記の2点が予防効果の主要なメカニズムである可能性がある。この点を明らかにするため、当該年度では、運動習慣のない一般成人と、運動を継続している成人を対象に、一過性のレジスタンス運動後における血管内皮機能と各種生理応答を比較した。 運動習慣のない一般成人男性12名(コントロール群)と、レジスタンス運動を少なくとも2年以上継続している成人男性12名(運動継続群)を対象に、一過性のレジスタンス運動を実施した。レジスタンス運動の前後において、上腕動脈の血流依存性血管拡張反応(Flow-mediated dilation: FMD)および血圧を測定した。また、採血を実施し、採取した血液成分から血管の収縮に関わるEndothelin-1と拡張に関わるNOx、交感神経活動に関わるカテコラミン(エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン)を測定した。 その結果、コントロール群は一過性のレジスタンス運動後にFMDが有意に低下した(血管内皮機能が悪化した)。一方で、運動継続群には同様の低下が認められず、FMDの値は維持された。血圧、Endothelin-1、NOx、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミンの応答に群間で差は認められなかった。一方、微小血管の機能を反映するFMD測定中の反応性充血は、運動継続群でのみ一過性のレジスタンス運動後に有意に増加した。 以上の結果から、運動トレーニングが持つ一過性のレジスタンス運動後における血管内皮機能の低下予防効果には、運動後における微小血管機能の亢進が関与している可能性があることが明らかになった。
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