研究課題/領域番号 |
21K17557
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
加藤 久詞 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 流動研究員 (30780275)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エクソソーム / microRNA / 脂肪由来幹細胞 / 白色脂肪組織 / 運動トレーニング |
研究実績の概要 |
近年、脂肪由来幹細胞から分泌されるエクソソーム(ASC-Exo)による全身へのパラクリン効果が注目されている。そこで本研究は、肥満を基盤とする生活習慣病の予防・改善に有効な手段である運動の健康増進効果を包括的に理解するために「microRNAを含むエクソソームに着目した細胞間クロストークの解明」を目的としている。本年度は、運動トレーニング後の皮下脂肪由来ADSCから分泌されたADSC-Exoが脂肪分化ならびに骨格筋のインスリン感受性に及ぼす影響を検証した。Wistar系雄性ラットを対象に9週間の走運動トレーニング(EX)を課し、非運動(SED)群とEX群の鼠蹊部周囲白色脂肪組織からADSCを単離し,その後ADSC-Exoを精製し,脂肪細胞(3T3-L1)と筋細胞(C2C12)への添加実験を実施した。その結果、3T3-L1へのEX群のADSC-Exo添加は、SED群と比較して、脂肪滴の形成を顕著に抑制し、その際APMKシグナルが顕著に活性化していた。さらに、C2C12細胞へのEX群のADSC-Exo添加は、SED群と比較して、インスリン刺激によるAKTシグナルの活性化を増強した。以上より、運動トレーニングによって分泌されたADSC-Exoは、脂肪分化を抑制すること、さらに筋細胞におけるインスリン感受性を亢進させるなどパラクリン効果が示唆された。しかし、この作用機序は不明であるため、今後、運動によって顕著に変動するmicroRNAを同定し、作用機序の解明に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画は、①非運動群、運動群の脂肪由来幹細胞から分泌されるエクソソーム(ADSC-Exo)が、脂肪細胞および筋細胞に及ぼす影響を検証すること、②運動トレーニングによって顕著に発現が変化したExosomal-microRNA(候補”Exerkine”)の同定と機能解析であった。実際、本年度の研究は、研究の目的・計画に沿って遂行され、①は完遂し、運動群から精製したADSC-Exoは、脂肪分化を抑制すること、筋細胞のインスリン感受性を亢進させることが明らかとなり、有用な知見が得られた。一方、②は候補”Exerkine”は同定済であり、現在機能解析を遂行中である。計画では、②の機能解析まで完遂させる予定であったため、研究の達成度は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年までの研究で得られた結果を元に、①同定済の運動によって顕著に発現が変化したExosomal-microRNA(候補”Exerkine”)の機能解析と②高強度間欠的運動トレーニング(HIIT)が脂肪組織のmicroRNA(miRNA)に及ぼす影響の解明に取り組む予定である。 ①候補”Exerkine”の機能解析:本研究1年目に実施したADSC-Exoを対象としたmiRNAの網羅的解析の結果より、運動によって有意に発現が変化したmiRNAは11個であり、中でも最も変動したmiRNA「miR323-5p」に焦点を絞り、その機能解析を実施する。 ②HIITが皮下脂肪組織のmiRNAに及ぼす影響の解明:近年、HIITの健康増進効果が注目されているが、その作用機序は不明な点も多い。そこで、HIITが皮下脂肪組織のmiRNAに及ぼす影響を検証する。トレッドミルを用いた9週間のHIIT(Tsuchiya et al. Biochem Biophys Res Commun, 2023)を実施後、皮下脂肪組織を摘出し、miRNAのマイクロアレイ解析を実施する。その後、HIITによって、①の「miR323-5p」が変動するか否かを明らかとする。また、別途顕著に変動したmiRNAを同定し、データマイニングにより想定される作用機序を明らかにする。 以上より、運動による全身の健康増進の作用機序の一端をmicroRNAの観点から明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度は予定していた計画(①ADSCーExoの添加実験、②ADSCーExoの機能解析)のうち、①を中心にに実施し完遂できたが、②はまだ実施中であり、実験試薬や消耗品等の支出が予定よりも少なかった。さらに、研究成果の発表を予定していた学会大会もCOVID-19の影響で現地開催からオンライン開催へ切り替わるなど、予定していた旅費の支出も少なかった。以上の理由より、次年度使用額が生じた。 本年度は、昨年解析したマイクロRNAの網羅的解析の結果をさらに深化させることを目的に、追加検証や作用機序解明を実施する。また、その成果を学会大会で発表し、さらに学術論文への投稿も視野に入れている。
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