オリンピックやW杯など様々な競技会が暑熱環境下で行われる今日において,実践的暑さ対策の開発は重要課題である.アイススラリーの摂取による身体冷却は実用性が高く,運動前の摂取により運動能力を向上させることが多数報告されている.しかしながら,その背景にあるメカニズムや,より効果的な摂取方法についてはまだ十分に明らかにされていない.申請者は,運動前のアイススラリー摂取が脳温を低下させること,運動前および運動中のアイススラリー摂取が核心温および前額部深部温(脳温の指標)の上昇を抑制することを新たに明らかにした.本研究では,運動前のアイススラリー摂取による脳温の低下が認知機能に影響を及ぼすのか調査するとともに,運動中の継続的な摂取によりそれらに違いが生じるのか,変化が生じた場合運動能力が変化するのか否かを検討することで,メカニズムおよび効果的な摂取方法を解明する一助とすることを目的とした. 今年度は運動前のアイススラリー摂取が認知機能に及ぼす影響を検討した.実験は運動前にアイススラリー(ICE条件)または中立温度のスポーツ飲料(CON条件)を摂取する2条件を設定し,摂取後の運動中における認知機能の変化をヴィジランス課題(反応時間,正答率)を用いて評価した.結果として,条件間で初期値に差があったため,実験を通して有意な差は観察されなかった.しかしながら,ICE条件はCON条件と同等の反応時間でやや高い正答率を維持していたため,初期値の差がなければ,アイススラリー摂取による認知機能低下の抑制を観察することができた可能性がある. 本研究では新型コロナウイルスの影響もあり,認知機能に及ぼす影響を検討するに留まったが,アイススラリーの摂取で認知機能が改善する可能性が示唆されたため,今後は実験の精度を高め,認知機能に及ぼす影響を再検討するとともに,効果的な摂取方法についても検討していく予定である.
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