研究課題
本研究課題の採択に先立って開始していた小課題について解析を完了した。その小課題では短距離競技者と一般成人の下肢の慣性特性を比較した。具体的には、水強調画像と脂肪強調画像に分解された下肢のMRI画像を取得し、画像解析によって全てのボクセルの組成 (脂肪組織、皮膚や筋などの非脂肪軟部組織、海綿骨、皮質骨) を同定、各組成の密度の文献値を用いて質量分布を算出した。その結果、短距離競技者は身体質量に対する下肢の質量比は大きいが、股関節まわりの慣性モーメント (つまり力学的な下肢のふりにくさ) に差は見られなかった。また、短距離競技者は大腿の質量比は大きいが下腿と足部では差が見られなかった。つまり、全力疾走への適応による質量増大は下肢においてより身体の中心部に近い部分でのみ生じ、末端部では大きく生じないことで、下肢のふりにくさを大きくしないことが定量的に示された。さらに、大腿・下腿・足部の密度を計算すると、短距離競技者は一般人に比べて全ての身体部分で同じだけ密度が大きいこと、大腿で見られた群間差よりも密度の差が小さかった。このことから、各身体部分の質量変化は身体部分の体積変化に大きく依存すること、慣性モーメントが大きくならないことは身体部分の体積変化のしやすさに由来していることが示された。この体積変化のしやすさはヒトが元々有している筋の配列に由来していることが示唆され、ヒト種がもつ形態的特性の最大出力が伴う身体運動への適応に対する実質的な利点であることが考えられた。本内容は国内学会で発表するとともに、国際誌に投稿した。
3: やや遅れている
研究期間開始直前の代表者の所属変更により、実験系を新たに組みなおす必要性が生じた。この点については、附属病院と連携できるようになり解決した。年明けから今の所属でのデータ取得を開始し、データ収集を進めている。データ収集についてはかなりのペースで進んでおり、遅れをかなり巻き返している。さらに、予定通り本プロジェクトに関わる論文の投稿を完了している。全てが完全に予定通りではないため「やや遅れている」という判定区分を選択したものの、おおむね順調といえる。
今後は予定通り長距離競技者の測定を行うことで得られた成果の負荷特異性を検証する。また、予定では部位特異性を検証する目的で上肢の高速スイング動作が求められるやり投げ競技者の測定を行う予定であったが、砲丸投競技者の測定に予定を変更する。これは、本研究により身体の動かしにくさを増大せずに身体が発達することは競技特異的というよりも元々ヒトが持っている形態的特性に由来することが示唆されたため、より筋パワーに依存する砲丸投競技者を分析することで、ヒトの四肢に一般的な特徴であることを検証するためである。
おおむね予定通りの支出であったが、直接経費¥1,6000,000のうち¥5,144残存したため次年度使用額となった。支出予定に大きな変更はなく、次年度も当初の計画通り支出する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件)
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