膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament; 以下、ACL)損傷はジャンプ着地の際に膝が外反(膝が内に入ること)することで発生するスポーツで多い外傷であり、予防するためには膝が外反しないような安定したジャンプ着地を実施する必要がある。本研究の目的は下肢に整形外科的既往のない健常大学生を対象とし、疲労を引き起こす股関節外転/内転および膝関節伸展/屈曲運動前後においてジャンプ着地を行い、各運動前後での運動学・運動力学的変化と疲労状態との関係を明らかにすることである。令和4年度は、健常大学生22名を対象とし、片脚でのジャンプ着地(20cm台からの着地)時の下肢関節の運動と下肢筋活動を記録した。その結果、着地時の平均角度において、膝関節疲労課題では膝関節の外反が発生し、股関節疲労課題では膝を内旋させる外力が加わることが明らかとなった。また、双方の疲労課題ともに大腿四頭筋の筋活動の増加が確認された。本研究により、ACL損傷の原因となる膝関節外反の発生は疲労課題によって異なることが判明した。さらに、膝関節疲労課題にて膝関節外反が発生した群とそうでない群の2群間で比較したところ、股関節角度や床反力、大腿四頭筋の筋活動が低下し、股関節内旋モーメントが発生していたことがわかり、膝関節外反が生じた場合の特徴は股関節の運動学的、運動力学的変化であることが明らかとなった。また疲労課題の経時的変化を検討したところ、股関節疲労課題では前額面、膝関節タスクでは矢状面の変化が課題15分後まで生じることが明らかになった。本研究の結果から、ACL損傷予防のために膝関節外反を抑制する戦略を考案する際には、股関節の機能や疲労課題15分以上の経過観察が必要であることが示唆された。
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