本研究では2つの調査を実施した。調査1では、大学生アスリートを対象に、反芻・省察と精神的健康の関連を試合で必要な心理的能力と競技パフォーマンスの自己評価が媒介するかについて検討するために質問紙調査を実施した。対象者は大学生アスリート163名であった。重回帰分析の結果、反芻・省察が精神的健康に与える影響には試合での心理状態やパフォーマンスの出来が関与していることが示唆された。また、反芻が高いアスリートと省察が低いアスリートに対する効果的な介入方法を明らかにするために、反芻と省察が試合での心理状態やパフォーマンスにどのように影響するかを検討することが重要であることが示された。 そこで、調査2では、反芻が高いアスリートと省察が高いアスリートを対象にして、試合前・中・後の心理状態について質的研究法を用いて検討した。対象者は、反芻が高いアスリート3名、省察が高いアスリート3名を調査1の参加者から選定した。インタビュー内容については、最近行われた重要な試合の前・中・後の心理状態について質問を行った。 分析の結果、反芻が高いアスリートは、試合前に【他者と比べて自身が劣っていることについて考えてしまう】。試合中は、【他者と距離を取り、一人で目標達成・問題解決を試みる】。しかし、試合での競技成績やパフォーマンスがあまり良くないこともあり、試合後は【居場所の喪失】を感じることが示された。一方、省察が高いアスリートは、試合前に【自分自身の役割や周囲との関係性について考える】。試合中は、【他者と距離を近づけ、協力して目標達成・問題解決を試みる】。そして、試合後は、【居場所の発見・追及】を感じることが明らかにされた。 以上の2つの調査から、反芻が高いアスリートと省察が低いアスリートに対して、他者と自己の関係を捉え直すことで試合での心理状態や精神的健康を向上させることができることが示唆された。
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