研究実績の概要 |
近年、肥満に伴い骨密度が低下すること、肥満者の骨髄で増加する飽和脂肪酸が破骨細胞の分化促進、アポトーシス抑制を介して骨吸収を亢進することが報告されている。一方で、その詳細な分子メカニズムや脂肪酸の種類による違い、食品因子が及ぼす影響には不明な点が多い。初年度の本年は、飽和脂肪酸ならびに不飽和脂肪酸が破骨細胞に及ぼす影響と詳細な作用機序について検討するとともに、生体内での効果を比較することを目的とした。 細胞実験では、破骨前駆細胞RAW 264.7をRANKL刺激により破骨細胞に分化させ、飽和脂肪酸であるパルミチン酸、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸、多価不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸、リノール酸を同時に添加した。分化に対する影響を酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ染色にて検討した結果、パルミチン酸により破骨細胞数が増加した一方、オレイン酸、α-リノレン酸、リノール酸では減少した。また破骨細胞分化及び炎症関連因子(NFATc1, TRAP, Ctsk, DC-STAMP, OC-STAMP, OSCAR, RANK, TNF-α)のmRNA及びタンパク質発現量についても、同様の傾向がみられた。作用機序検討のため、破骨細胞分化マスター転写因子NFATc1の転写活性をルシフェラーゼアッセイにて測定した結果、パルミチン酸はNFATc1の転写活性を促進した。 動物実験では、C57BL/6J雄マウスにパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸含有量が異なる高脂肪食をそれぞれ8週間摂取させた。大腿骨の骨密度を測定した結果、パルミチン酸高含有食群のみ普通食群と比較して骨密度が低下し、血中の遊離脂肪酸濃度が増加した。また大腿骨の遺伝子発現解析では、特にパルミチン酸高含有食群でTRAP, Ctsk, OSCAR, RANKの発現量が増加したが、オレイン酸高含有食群では増加しなかった。
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