哺乳類の腸内には、約40兆個、100種以上の細菌が生息しており、その集団を腸内細菌叢と呼ぶ。この腸内細菌叢は、腸内細菌叢の代謝産物である短鎖脂肪酸などを介して、宿主の様々な生理機能と密接に関わっており、腸内細菌叢の構成を整えることは種々の疾患の予防・改善につながると考えられている。運動は腸内細菌叢の構成に影響を与える要因の一つであり、適度な運動が腸内細菌叢を整えることも知られている。一方、習慣的な運動が肥満や糖尿病の予防・改善に効果的であることは広く知られているが、この運動による代謝調節作用は運動の実施時間帯によってその効果が異なる。このことを踏まえると、運動の実施時間帯によって腸内細菌叢に与える影響も異なると考えられる。 そこで、本研究の目的は、運動の実施時間帯の違いによって腸内細菌叢に与える影響が異なるかどうかを明らかにすることとした。昨年度まで、マウスを用いて、活動期のはじめを「朝」、真ん中を「昼」、終わりを「夕」と定義し、輪回し運動を実施させたところ、夕の時間帯の運動により、腸内細菌叢の構成が大きく変化し、短鎖脂肪酸の産生量が増加することを見出した。さらに、この運動による腸内細菌叢の構成変化のメカニズムには、交感神経の活性化と深部体温の上昇が関与していることを見出した。本年度では、検証する運動の時間帯を増やし、マウスの非活動期にトレッドミルにより運動させた。非活動期のはじめを「夜」、真ん中を「深夜」、終わりを「早朝」と定義し、それぞれの時間帯に運動をさせたが、短鎖脂肪酸の増加および腸内細菌叢の構成変化は確認されなかった。この時、体温上昇に関して、深部体温を調べたが、運動により体温は上昇していた。体温が上昇しているにも関わらず腸内細菌叢が変化しなかった理由として、非活動期に強制的に運動をしたことによるストレスが関係している可能性が考えられた。
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