研究課題/領域番号 |
21K17653
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
蓮澤 奈央 久留米大学, 医学部, 助教 (00837908)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | VLDL分泌 / 脂質代謝 / VNUT / Quinacrine / HepG2 |
研究実績の概要 |
肝臓は脂質を取り込み、合成・貯蔵・分泌し、全身の脂質代謝を担っている。肝脂質の過剰蓄積は、超低比重リポタンパクVLDL分泌を亢進させメタボリックシンドロームの病態はさらに悪化する。Vesicular nucleotide transporter (VNUT)はATPの小胞性分泌を担うトランスポーターであり、申請者はこれまでに、肝細胞のVNUT依存性ATP開口放出、そして細胞外ATPによる炎症・インスリン抵抗性惹起を明らかにしてきた。VLDL小胞はVNUTを発現しており、VNUT阻害薬クロドロン酸はグルコース応答性ATP分泌、VLDL分泌、脂質蓄積を抑制した。クロドロン酸は、炎症、線維化等の脂肪肝炎所見を著しく改善した。本研究は、肝細胞のATP小胞分泌がVLDL分泌を促進する機構を分子レベルで解明することを目的としている。これにより、肝脂肪蓄積とVLDL分泌過剰の悪循環にアプローチする、新しい脂肪肝炎治療法の確立を目指す。 2021年度はまず、ATP小胞分泌のメカニズムを、ヒト肝細胞培養細胞HepG2株を用い、ATP分泌のCa2+依存性、グルコース応答性、脂肪酸応答性を確認した。次に、免疫染色によりHepG2におけるVLDL構成アポタンパクApoB100とVNUTの共局在を確認した。さらに脂肪酸刺激によるトリグリセライド合成及びVLDL分泌を確認した。現在VNUT阻害の効果を検討中である。 さらに、細胞内ATP含有小胞の標識マーカーとしてこれまで多く用いられてきたQuinacrineを用いた実験を計画した。しかし、VNUTノックアウト肝細胞においてもQuinacrine蓄積が同様に見られ、細胞内ATP小胞の標識には適さないことがわかった。これをQuinacrine小胞取り込み動態を明らかにすることで論文として報告した(Purinergic signaling 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本企画はATPによるVLDL分泌促進作用の作用点を明らかにする、及びクロドロン酸による肝脂質蓄積抑制のメカニズムの解明、の2項目に大別し計画された。 ①ATPによるVLDL分泌促進作用の作用点を明らかにする 2021年度はまず、ヒト肝細胞培養細胞HepG2株を用いて、ATP小胞分泌のメカニズムを、さらに詳細に明らかにした。その結果、HepG2からのATP分泌がCa2+応答性であること(イオノマイシンによるATP分泌、及びEDTAによる阻害)、また初代培養肝細胞と同様のグルコース応答性ATP分泌を確認した。これらはVNUT阻害薬クロドロン酸によりいずれも抑制された。免疫染色により、HepG2におけるVLDL構成アポタンパクApoB100とVNUTの共局在を確認した。パルミチン酸及びオレイン酸によるHepG2のトリグリセライドの合成及び分泌を確認した。 ②クロドロン酸による肝脂質蓄積抑制のメカニズムの解明 HepG2のトリグリセライド合成及び分泌をオイルレッドOによる染色及び定量、また細胞内のトリグリセライドの直接定量を行ない、パルミチン酸及びオレイン酸による脂質の合成及び分泌促進を確認した。これに対しVNUT阻害薬を用いると、脂質合成及び分泌の抑制傾向が見られた。さらに、ATPの分泌と脂質蓄積の関係を明らかにするために、細胞内ATP含有小胞を標識する蛍光物質マーカーとしてこれまで伝統的に用いられてきたQuinacrineを用いた実験を計画した。しかし、VNUTノックアウトマウスの肝細胞においてもQuinacrineの蓄積が同様に見られた。このためQuinacrineは細胞内ATP小胞の標識には適さないことがわかり、これをQuinacrineの小胞取り込み動態を明らかにすることで論文として報告した(Purinergic signaling 2021)。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、当初の計画通り2項目について以下の通り研究を行う。 ①ATPによるVLDL分泌促進作用の作用点を明らかにする 2021年度の研究によりHepG2株が、ATP小胞分泌によるVLDL分泌促進作用の研究に使用可能であることが明らかになった。2022年度以降はさらに、グルコース刺激時及びATP刺激時のApoB100の細胞内局在を小胞体, ゴルジ体, リソソーム, 脂肪滴等とともに共焦点顕微鏡において確認する。さらにプリン受容体刺激薬、阻害薬がapoB100の培養液中及び組織内濃度に与える影響を定量的に明らかにする。また、細胞外ATPは、ApoB100のオートファジーを阻害することにより、VLDL分泌を促進すると考えられており、脂質代謝の理解にはオートファジーの細胞内局在が重要である。グルコース刺激時のLC3とApoB100の細胞内局在と、VNUT阻害によるその変化を解析する。 ②クロドロン酸による肝脂質蓄積抑制のメカニズムの解明 HepG2株におけるオレイン酸及びパルミチン酸による脂質合成を確認したため、さらにVNUT siRNA及びVNUT阻害薬によって生じる脂質代謝パスウェイの変化をmRNA定量解析及びウェスタンブロットを用いて確認する。具体的には、Srebp1cを始めとする脂質合成関連遺伝子、Pparα・Cpt1等の脂肪酸代謝関連遺伝子、Gk、Pepck等の糖代謝関連遺伝子や、AMPK, mTOC1等のシグナリング解析を行う。さらに、細胞外ATPの脂質酸化に対する影響を解明するため、初代培養肝細胞またHepG2細胞株を14C でラベルしたオレイン酸で処理後、細胞内及びメディウム中の14C TGと14CO2を定量することにより、脂質合成とβ酸化の活性をそれぞれ定量する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に必要な試薬(抗体)の購入に金額が満たなかったため、次年度分助成金と合わせて購入する予定とした。
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