我々は以前にミトコンドリア障害の指標の一つであるGDF-15が多発性硬化症(MS)の重症度と相関することを報告しており,ミトコンドリア障害のMS病態への関与が示唆された.一方、疲労の原因としてもミトコンドリア障害の関与が報告されている.本研究ではマウスモデルを用いてMS病態へのミトコンドリア障害の関与を明らかにすることを主要課題とした. 当初、筑波大学で開発された欠失型ミトコンドリアDNAを持つミトコンドリア欠損マウス(ミトマウス)に実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を導入し、その重症度を野生型マウスと比較する予定であった。しかし、コロナ禍のため実験室間の移動が制限されたため、ミトマウスの作成・使用が困難な状況となった。そのため、EAEマウスに対してミトコンドリア病に使用されている薬剤投与実験を行うこととした。10週のメスC57BL/6jマウスに対して、Hooke kit(TM) MOG35-33/CFA emulsion PTV(EK2110)を用いてEAEを誘導した。EAE誘導後12週のマウス脊髄のKB染色により病理学的に脊髄側索に脱髄が引き起こされており、EAEが誘導されていることを確認した.次に、野生型マウスにミトコンドリア機能改善薬であるピルビン酸ナトリウムを投与し、EAEが軽症化するかどうかを検討した。C57BL/6jマウスの飲水量をチェックし、ピルビン酸濃度をヒトで投与されている量(0.5g/kg/日)と同様に決定した。ピルビン酸ナトリウムはナトリウムを含むためコントロールマウスには生理食塩水を投与した。臨床的重症度評価は尾および下肢の麻痺により7段階で評価した.現在、ピルビン酸ナトリウム投与マウス30匹と生食コントロール15匹について統計学的解析をおこなっている。今後、電子顕微鏡を含む病理学的変化、その他バイオマーカーの検討を予定している。
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