研究課題
経頭蓋静磁場刺激法(tSMS, transcranial static magnetic field stimulation)は、小型で高強度のネオジム永久磁石を頭表に留置し直下の脳皮質を抑制する、安全・安価・簡便な新しい非侵襲的脳刺激法である。研究代表者が開発した複数のネオジム永久磁石を組み合わせたシン磁場刺激は、神経調節に有効な強さの磁場を脳深部領域に形成できない従来のtSMSの欠点を克服した。脳表を刺激する際、シン磁場刺激では磁石を頭表から離すことができ、磁石と頭表の間に検査機器や刺激装置を設置する(マルチモーダル)ことが可能になった。本研究では、tSMSと神経生理学的な神経活動計測を組み合わせて、脳機能の変化をもたらす脳可塑性をオンラインで評価し、その神経生理学的機序を解明する。さらにtSMSと他の非侵襲的脳刺激法とを組み合わせて複合的な脳可塑性を誘導することにより、従来のtSMSの効果を増大する刺激法を開発する。初年度は、tSMS中のオンライン脳波計測を行った。正常健常人の一次運動野に対しtSMSを20分間実施し、その介入前と介入中の脳波を計測した。比較対象として、tSMSで用いる磁石と外見・重量が同じ偽刺激用装置によるシャム刺激も同条件で行った。磁石直下の一次運動野で遅い周波数の脳波活動が増大し、また磁石直下の一次運動野と頭頂正中部間の機能的結合が遅い周波数の脳波活動領域において増大することが確認された。これは、tSMSが脳神経細胞の活動のリズムを遅くすることで効果を発揮し、その効果は刺激直下の部位にとどまらず脳内ネットワークを介して遠隔部位に至りうることを示す所見であり、tSMSの神経調節作用の解明に大いに貢献した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りtSMS中のオンライン脳波計測を実施し、tSMSが誘導する脳機能変化を電気生理学的に解明することができた。外部電源を用いないtSMSは、刺激中に電気的なアーチファクトを発生させないため、S/N比の高い脳波データを記録できた。
tSMSと他の非侵襲的脳刺激法とを組み合わせたマルチモーダル脳刺激法の、正常健常人への効果を検証する。一次運動野の興奮性は運動誘発電位(一次運動野を外的に刺激し、その支配筋を収縮させたときの筋電図の大きさ)で定量的に評価する手法が確立しているため、刺激部位に一次運動野を用いる。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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