研究課題
経頭蓋静磁場刺激法(tSMS, transcranial static magnetic field stimulation)は、小型で高強度のネオジム永久磁石を頭表に留置し直下の脳皮質を抑制する、安全・安価・簡便な新しい非侵襲的脳刺激法である。研究代表者が開発した3個のネオジム永久磁石を組み合わせたシン磁場刺激は、神経調節に有効な強さの磁場を脳深部領域に形成できない従来のtSMSの欠点を克服した。脳表を刺激する際、シン磁場刺激では磁石を頭表から離すことができ、磁石と頭表の間に検査機器や刺激装置を設置する(マルチモーダル)ことが可能になった。2021年度は、tSMS中の脳波計測を行い、脳機能の変化をもたらす脳可塑性をオンラインで評価した。正常健常人の一次運動野に対しtSMSを実施し、その介入前と介入中の脳波を計測した。比較対象として、tSMSで用いる磁石と外見・重量が同じ偽刺激用装置によるシャム刺激も同条件で行った。磁石直下の一次運動野で遅い周波数の脳波活動が増大し、また磁石直下の一次運動野と頭頂正中部間の機能的結合が遅い周波数の脳波活動領域において増大することが確認された。これは、tSMSが脳神経細胞の活動のリズムを遅くすることで効果を発揮し、その効果は刺激直下の部位にとどまらず脳内ネットワークを介して遠隔部位に至りうることが考えられた。2022年度はtSMSと経皮的迷走神経刺激(tVNS)とを組み合わせて複合的な脳可塑性を誘導する実験を行った。正常健常人を対象にまず実刺激あるいはシャム刺激のtVNSを行った後、右一次運動野に対して実刺激のtSMSを行い、右一次運動野の興奮性を評価した。tVNSはtSMSの脳機能抑制を打ち消す所見が得られ、両者を併用することでM1の興奮性を安定化する生理的機構が働いたことが推察された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りtSMSとtVNSを組み合わせたマルチモーダル脳刺激実験を実施し、tSMSとtVNSの組み合わせがもたらす複合的な脳可塑性を評価することができた。
tSMSがもたらす神経調節作用の神経生理学的機序はまだ完全には解明されていない。今後はtSMSの神経調節作用と大脳皮質における酸素代謝変化との関係を明らかにする。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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