研究課題
健康寿命を縮める主な要因の一つである運動器疾患の患者数は増加傾向にある。運動器疾患の発症や進行抑制に食生活も重要な役割を果たすと考えられている。報告者は、変形性関節症と骨粗鬆症の双方へ効果を発揮する食品・栄養成分を明らかにしてきた。これらの疾患予防効果の作用機序として、炎症抑制作用にくわえ免疫系へ作用する可能性を見いだした。そこで本研究においては、変形性関節症や骨粗鬆症へ有効に作用する食品・栄養成分が自己免疫異常と関連の深い運動器疾患である関節リウマチへの予防効果も示すことを明らかにすることを目的に検討を進めた。さらに、その詳細な作用機序を明らかにするとともに、関節リウマチに伴う脳や腸といった各種臓器の損傷に対して食品・栄養成分が有効に作用することを解明すべく検討を進めた。本年度は、昨年度実施したスクリーニング試験にて関節リウマチ予防効果が期待された食品・栄養成分の有効性を、コラーゲン抗体誘導関節炎モデルマウスを用いて検討した。食品・栄養成分投与群と非投与群の関節状態の変化を経時的に観察・評価するとともに、各組織の変形や炎症の程度を組織学的に解析するために膝関節、踝及び筋肉のHematoxylin-Eosin染色、Safranin-O fast green染色を実施した。その結果、いくつかの食品・栄養成分が関節リウマチに対して予防的な効果を発揮することを明らかにした。また、その作用機序として、インテグリン発現抑制効果が関与していることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標は、①マウスへの投与実験を行い、経口摂取による有効性を明らかにすること、②関節リウマチ予防効果の作用機序を明らかにすること、③関節リウマチの進行に伴って悪化する不安様症状や各種臓器への影響を確認することであった。①マウスへの投与実験については、初年度のスクリーニング試験で関節リウマチ予防効果が期待された食品・栄養成分についての投与実験を進めた。そして、複数の食品・栄養成分が関節リウマチに対して予防効果を発揮することを明らかにした。また、スクリーニング試験を行い、新たに複数の食品・栄養成分が関節リウマチに効果を発揮する可能性があることを見いだした。②作用機序の解明では、細胞や投与マウスの臓器を用いた実験で検討を進めた。その結果、食品・栄養成分による関節リウマチ予防効果にインテグリン発現抑制が作用することを明らかにした。③各種臓器への影響では、関節リウマチモデルマウスに食品・栄養成分を投与し、脳や腸などの各種臓器へどのような影響を及ぼすか解析した。飼育期間中に、十字迷路試験や痛覚感知試験等を実施し、抗うつ効果や抗不安効果について検討した。その結果、食品・栄養成分を摂取した群では、関節リウマチの進行によって悪化する不安様行動を和らげる働きが見られた。また、関節リウマチの進行と腸内細菌叢への影響に関する報告がいくつかあることから、関節リウマチの進行と腸内細菌叢への影響および食品・栄養成分の効果の検討を進めることができた。以上のように、おおむね順調に進展していると考える。
関節リウマチ予防効果と作用機序の解明をより進めるとともに、各種臓器への影響を検討する。「関節リウマチ予防効果を示す食品・栄養成分」を明らかにするために、スクリーニング試験の結果効果が期待された成分について、投与実験を行う。「関節リウマチ予防効果の作用機序」を明らかにするために、遺伝子発現解析・タンパク質発現解析等の手法を用いて、インテグリン発現作用や新たな作用機序についての検討を進める。「関節リウマチの進行に伴って悪化する各種臓器への影響」を明らかにするために、以下の検討を行う。脳機能については、行動科学試験および病理解析を行い、関節リウマチの進行に伴って悪化する不安様行動や認知機能の低下に対して食品・栄養成分がどのように作用するか検討を行う。腸機能については、次世代シークエンサーを用いた検討で腸内細菌叢への影響を検討する。これらの検討により、複数の食品・栄養成分による関節リウマチ予防効果とその作用機序また、各種臓器への影響を明らかにする。
次年度、遺伝子発現解析を行う試薬を購入する際に、残金分を使用したいため。
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