研究課題/領域番号 |
21K17680
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
有澤 琴子 東北大学, 薬学研究科, 助教 (00813122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化コレステロール / 脂肪酸 / フェロトーシス / 酸化ストレス / NASH / 糖尿病 / 脂質 |
研究実績の概要 |
近年、世界的に動物性食品や加工食品の摂取量の増加が見られ、これらの食品に含まれる酸化コレステロールは、2型糖尿病やNASHなどの疾患との関連が示唆されている。酸化コレステロールは脂質代謝の重要な転写因子であるLXR(Liver X receptor)のリガンドとして知られているが、酸化コレステロールによる細胞毒性が、脂質代謝変化の結果であるのかは明らかではない。本研究は、酸化コレステロールを介した脂質組成の変化が細胞障害を引き起こす可能性を明らかにすることを目的とした。 本年度は研究の推進方針を修正し、脂質過酸化と細胞内二価鉄の生成に依存する細胞死形態であるフェロトーシスに注目した検討を行なった。フェロトーシスはNASHやアルツハイマー病など、酸化ストレスが関与する様々な疾患への関与が報告されている。フェロトーシス誘導時に増加する酸化コレステロール分子種を明らかにし、酸化コレステロールの生成がフェロトーシスを促進あるいは抑制し得るか検証した。 神経芽腫由来細胞株であるSH-SY5Y細胞にフェロトーシス誘導剤であるerastinを処理し、蛍光プローブを用いて過酸化脂質および脂質ラジカルを測定した結果、脂質ラジカルが過酸化脂質の上昇に追随して増加した。このとき生成する細胞内酸化コレステロールをGC-MSで測定した結果、erastin処理後1時間では酵素的に生成される7α-hydroxycholesterol(7α-OH)が増加し、6時間以降でラジカル依存的に生成する7β-hydroxycholesterolの増加が見られた。薬剤処理初期に増加する7α-OHのフェロトーシスの感受性への影響を検証するため、7α-OHの産生酵素であるCYP7A1をCRISPR-Cas9でノックアウトした細胞を樹立した。現在、CYP7A1ノックアウト細胞のフェロトーシス感受性を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、GC-MSによる酸化コレステロールの測定系を確立し、フェロトーシス誘導時に特徴的に増加する酸化コレステロール分子種について新たな知見を得ることができた。また、蛍光プローブを用いて過酸化脂質および脂質ラジカルの細胞内分布を観察することにより、脂質酸化物の蓄積が見られたオルガネラはリソソームであることが明らかになった。 一方、増加が認められた酸化コレステロールの細胞内分布の同定には至っておらず、酸化コレステロールが細胞膜あるいはリソソーム膜機能を調節しうるか、またその調節がフェロトーシスに影響するかまでは検証できていない。現在オルガネラ分画の手法を検討中であり、密度勾配超遠心分離法によりリソソームの粗精製は成功しているものの、他のオルガネラの混入や、酸化コレステロールを測定するのに十分な回収量を得られていないという問題がある。この問題を解決するため、抗体修飾磁気ビーズが結合できるリソソーム膜貫通タンパク質を細胞に発現させ、磁気ビーズを用いた免疫沈降法によってリソソームを分離する方法(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017)を用いてリソソームの精製を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、CYP7A1のノックアウト細胞を用いて、CYP7A1により産生される7α-OHがフェロトーシス感受性に与える影響を評価している。ここでフェロトーシス感受性と酸化コレステロールの関連が示された場合には、細胞膜やリソソームを分画し、それぞれのオルガネラへの酸化コレステロールの分布を明らかにする。また、酸化コレステロールはLXRのリガンドであることから、LXR下流の脂質代謝酵素の発現量の変化や、それにより変化し得る脂肪酸の量や質についても解析を行う。特に膜リン脂質を構成する多価不飽和脂肪酸は酸化を受けやすく、フェロトーシス感受性を増加させることが知られている。フェロトーシス誘導剤により増加する酸化コレステロールが細胞内の脂肪酸組成を変化させることで、フェロトーシスの感受性を調節し得るかを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前休暇取得のため、予定していた学会への参加がなくなり旅費の計上が不要になった。 次年度使用額は、学会における研究成果の発表および情報収集の機会を増やすために使用する予定である。
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