戦後の日本は食生活が激変し、その結果糖尿病をはじめとした生活習慣病が急増したと考えられている。特にカロリー摂取量と比較して、脂質摂取量が年々増加していることが厚生労働省の栄養調査によって明らかにされている。脂質、特に飽和脂肪酸が2型糖尿病発症において危険因子であるという報告は数多く見られるものの、その発症メカニズムについて十分に検討されたものは少ない。特に、欧米人と比較して明らかにBMIが低い日本人においては、インスリン分泌臓器である膵β細胞の脆弱性が以前から指摘されているが、脂質摂取と膵β細胞の脆弱性の関連について検討した報告はほとんど無い。また日本人の脂質摂取量が増加しているとはいえ、欧米人のそれとは比較にならないことは明白である。そこで代表者は、日本人の膵β細胞は特に脂質負荷において脆弱性を有するのではないか、という仮説を構築した。これまでに代表者は、高脂肪食負荷によって膵島におけるC/EBPβ発現が亢進することを見出している。また日本人において最も重要と言われる2型糖尿病感受性遺伝子、KCNQ1変異が膵β細胞不全を呈するメカニズムについても明らかにしている。本研究計画では、これらの研究成果をさらに発展させ、高脂肪食によって蓄積したC/EBPβがKCNQ1変異によって認められるp57発現をさらに増強させ、膵β細胞不全を引き起こす可能性について検証するものである。2021年度において、代表者はKcnq1変異マウスの膵島を用いてC/EBPβやp57の発現量について比較検討を行った。その結果、高脂肪食によりC/EBPβの発現量は亢進し、同時にp57の発現亢進も確認された。また、Kcnq1変異マウスを膵β細胞特異的C/EBPβ過剰発現マウスと交配してKCマウスを作製・解析したところ、著明な高血糖を呈した。今後はin vitroの系で詳細なメカニズムについて検討する予定である。
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