欧米人と比較して明らかにBMIが低い日本人においてはインスリン分泌臓器である膵β細胞の脆弱性が以前から指摘されているが、脂質摂取と膵β細胞の脆弱性の関連性について検討した報告はほとんどない。そこで代表者は、日本人の膵β細胞は特に脂質負荷において脆弱性を有するのではないか、という仮説を構築した。これまでに代表者は、高脂肪食負荷によって膵島における転写因子C/EBPβ発現が亢進することを見出している。さらに、日本人において重要と考えられる疾患感受性遺伝子Kcnq1遺伝子変異が細胞周期調節因子Cdkn1cの発現亢進を介して膵β細胞不全を呈するメカニズムについて明らかにした。本研究計画では、これらの研究成果をさらに発展させるべく高脂肪食負荷によって膵島に蓄積したC/EBPβがKcnq1変異マウスにおける膵β細胞不全を悪化させる可能性について検証するものである。2022年度では、Kcnq1遺伝子領域において発現するnon-coding RNA ‘Kcnq1ot1’発現が減少したKcnq1ot1 truncationマウスとC/EBPβ過剰発現マウスを交配し、Kcnq1ot1 truncated C/EBPβ過剰発現マウス(KCマウス)を作成し、KCマウスの代謝データ、膵β細胞量の測定を行った。KCマウスはコントロール群と比較して、有意な随時血糖値の上昇および血清インスリン値の減少が認められ、膵β細胞量においても対照群と比して有意に減少していた。また、高脂肪食を負荷したKcnq1ot1 truncationマウスの膵島にもC/EBPβとCdkn1cの有意な発現亢進が認められたが、Cdkn1cヘテロノックアウトマウスとの交配により膵β細胞のCdkn1c発現量を元に戻してやると膵β細胞量も回復した。このことから、分子機序としてやはりCdkn1c発現変化が膵β細胞量調節に寄与していると考えられた。
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