本年度は,妊娠期における潜在性ビオチン欠乏症が実際に生じるか,またこれに関与する可能性のあるエネルギー代謝経路候補を明らかにした. 非妊娠マウス,妊娠マウスにおいてそれぞれ対照群およびビオチン欠乏群を設けた計4群について,18日間(妊娠群は妊娠18日目まで)飼育後,母体血漿,母体肝臓,母体脂肪組織,胎盤,胎仔肝臓などを収集した.妊娠対照群に対して,妊娠ビオチン欠乏群の胎仔において有意に口蓋裂が発症した。母体血漿のビオチン濃度は妊娠とビオチン欠乏によって有意に低下し,妊娠は母体の潜在性ビオチン欠乏症の要因となることが示唆された。次に血漿生化学検査では,妊娠によってグルコース・総コレステロール・総タンパク質・アルブミン濃度の減少と中性脂肪の増加が生じた。母体血漿を用いたメタボローム解析では,妊娠によってビオチンが関わるBCAA異化代謝・糖新生の活性化,尿素回路の活性化が確認された。以上より,妊娠時に生じる母体の潜在性ビオチン欠乏症は,タンパク質の異化代謝と糖新生の亢進により生じる可能性が示唆された。 この他,前年度までの取り組みでは,妊娠時のビオチン欠乏が妊娠と同様にアミノ酸などの代謝を変動させる可能性があること,妊娠ビオチン欠乏マウスに対するビオチン補給が母体のビオチン栄養状態を完全に回復させないものの,胎仔口蓋裂発症予防に有益であることを確認している. 以上の成果より,妊娠はアミノ酸や糖などの代謝経路,すなわちエネルギー代謝を変動させてビオチン欠乏のリスクを増加させること,妊娠中にビオチン欠乏状態であると高頻度で口蓋裂などの胎仔奇形が発生することから,妊娠期の十分なビオチン摂取が重要であることが明らかになった.
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