研究課題/領域番号 |
21K17740
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石井 将大 東京工業大学, 学術国際情報センター, 助教 (10794399)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ペアリング暗号 / 楕円曲線 / 群所属判定問題 / 自己準同型環 / 同種写像 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,効率的なペアリングベース暗号に寄与するペアリングとその構成法を提案し,適切な暗号パラメータの探索を行い,その成果をペアリング暗号の利用者・実装者に提供することである. 2021年度では,特にペアリング暗号において扱われる数の正当性を担保するための技術の一つである,楕円曲線の有理点群における群所属判定の効率化に取り組んだ.効率的なペアリングを構成する際によく利用される楕円曲線族をより包括的に扱い,各曲線族における群所属判定手法と,背景にある数学的理論を整理し群所属判定が曲線族の性質を用いてどのように記述されるかを明らかにした.これらの成果を国内会議SCIS2022で報告し,現在研究対象を更に拡げ当該手法について精査を行っている.群所属判定の研究において明らかにした各曲線族の数学的性質等を活用し,引き続き実用的なペアリング暗号の構築のための研究開発を遂行する. また,楕円曲線間の同種写像に着目し,ペアリングフレンドリ曲線のみならず,同種写像によって移り合うより広範の楕円曲線を対象とし,安全かつ効率的なペアリングの構成に寄与する曲線やパラメータ探索を行う. 近年耐量子計算機暗号の一つの候補として注目を浴びている,楕円曲線,あるいはより高次のアーベル多様体をそれら多様体間に定義される同種写像を利用した同種写像暗号の研究を進めており,ISEC研究会において種数2のアーベル多様の間の同種写像を計算するためのexplicit formulaeの効率化について報告している.これらの研究で得られる同種写像の詳細な数学的性質,理論をペアリングに適した曲線の構成や,安全性解析に活用する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度においては,これまでに明らかにされていなかった新たな部分群所属判定手法の提案や関連技術の整理など,ペアリング暗号アプリケーションの安全性に関わる諸問題,課題の解決を優先した. これにより,当該期間に予定していた,有限体上の離散対数問題の求解コストや曲線族の性質等の詳細な分析によるパラメータの探索条件の決定,パラメータ探索基盤の構築などの研究を以降の期間において遂行することとなった. 当該期間で得られた研究成果は実用的なペアリング暗号の開発において強く関連し,本研究成果を統合した上で今後の研究期間においてより良いペアリング暗号の構成法の提案が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた効率的かつ安全なペアリング暗号の構成条件に対し,網羅的なパラメータ探索を行う.対象とするペアリングフレンドリ曲線として,先行研究において部分的に成果が得られている特定の曲線族のみならず,様々な曲線族や異なる曲線モデルについても考慮する. 更に,パラメータ探索とペアリング暗号のパフォーマンス評価を行うためのプラットフォームを構築する.比較的高性能なワークステーションにおいて数式処理システムを活用し,クラスタ環境や並列計算基盤を構築することにより,より効率的なパラメータ探索を行い,ペアリング暗号の設計コストの低減を目指す. 最終的に,ペアリングに適したパラメータや構成法,計算アルゴリズムの詳細,有限体上のオペレーションカウント,標準的な暗号演算ライブラリによるベンチマーク結果等をデータベース化し,ペアリングの利用者や実装者が参照できるよう,成果を公開し,提供する基盤を構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた高性能ワークステーションによる計算基盤の構築を,関連する研究内容の変更により,次年度に遂行する予定としたため.当該年度において優先した研究課題の解決により得られた成果を合わせ,当初予定していた暗号パラメータ探索や開発を遂行するための計算機資源を次年度の使用額より調達する.また,その見積額に大きな変更はない.
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