研究課題/領域番号 |
21K17757
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大塚 翔 千葉大学, フロンティア医工学センター, 助教 (00776049)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遠心性投射 / 耳音響放射 / オリーブ蝸牛束反射 / 雑音下での聴取 |
研究実績の概要 |
聴力は正常であるのにもかかわらず,競合する音が存在する中では聴取が困難になる症状が報告されている.この症状は「隠れた難聴」と呼ばれている.本研究では,雑音下での聴取を改善する役割を果たすオリーブ蝸牛束に可塑的変化が生じる神経基盤を解明するとともに,最適なトレーニング条件の導出を目指す. 皮質領域からオリーブ蝸牛束へは 遠心性神経が接続している.皮質領域の活動は,学習によって可塑的に変化することが知られている.それゆえ,皮質由来の遠心性神経系が,オリーブ蝸牛束の機能を可塑的に変化させる神経基盤となる可能性がある. これまでに確立したオリーブ蝸牛束反射と脳波の同時計測技術を応用して,昨年度までにオリーブ蝸牛束反射が注意や予期によって増強し,その制御に低周波数の皮質脳律動が関わっていることを示してきた.本年度はさらに,空間的注意課題,計算課題,及び,記憶課題の実行がオリーブ蝸牛束反射,及び,皮質脳律動に与える影響を検証した. これまでの研究で,注意や予期によってオリーブ蝸牛束反射が増強することが明らかになりつつある一方で,その増強が聴取において果たす役割は十分に検証されてこなかった.そこで,本年度は,その解明を目指し,注意に伴うオリーブ蝸牛束反射の増強と雑音下での聴取成績との関係を調べた.聴取課題実行中のオリーブ蝸牛束反射を同時に計測する手法を確立し,課題実行中にはコントロール条件(課題実行なしでオリーブ蝸牛束反射強度を測定)と比べてオリーブ蝸牛束反射が増強されることを明からにした.さらに,聴取成績は課題実行中のオリーブ蝸牛束反射強度と有意な相関があったものの,コントロール条件でのオリーブ蝸牛束反射とは有意な相関が見られなかった.この結果は,聴覚的な注意に伴うオリーブ蝸牛束反射の増強が,雑音下での聴取に寄与していることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,(1) 脳波とオリーブ蝸牛束反射の同時計測技術の確立,および,(2) 音声聴取トレーニングがオリーブ蝸牛束反射に与える影響,および,その可塑的変化を促進する要因の解明を目指す.昨年度までに(1)を達成した.本年度は,(1)で確立した手法を応用して,聴覚的注意に伴うオリーブ蝸牛束反射の増強によって,雑音下での聴取成績が改善されることを明らかにした.この結果は,オリーブ蝸牛束反射の可塑的変化によって雑音下での聴取が改善するという仮説を支持している.一方で,音声聴取トレーニングの影響を検証する実験にはまだ取り掛かれていないことから,本年度の進捗としてはやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した脳波とオリーブ蝸牛束反射の同時計測手法を用いて,音声聴取トレーニングに伴うオリーブ蝸牛束反射,および,皮質脳律動の変化を観察する.併せて,課題実行中に経頭蓋電気刺激法を用いて皮質領域を刺激する.これまでに経頭蓋電気刺激中にオリーブ蝸牛束反射計測を行った先行研究がないことから,まず,経頭蓋電気刺激の部位や強度に応じて,オリーブ蝸牛束反射がどのように変化するかを調べる.その検討に基づいて,経頭蓋電気刺激によって,音声聴取課題,および,脳律動・オリーブ蝸牛束反射へのトレーニング効果が促進されるかを調べる.さらに,オリーブ蝸牛束の機能にトレーニング効果を生じさせるために,課題に対する注意や報酬が必要かを検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
トレーニングの効果を検証するためには,被験者が長期で実験に参加する必要がある.被験者募集の都合で,実験の一部を次年度に行う必要が出た.そのため,本年度の謝金の支出が予定より少なかった.また,オープンアクセス化費用を使用する予定であった論文の採択が遅れため,その費用を次年度に使用することとした.
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