研究課題/領域番号 |
21K17765
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村上 泰樹 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (90779646)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聴覚モデル / 蝸牛 / 補聴 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
補聴技術は、健聴者と難聴者で聴覚末梢系の応答パターンが等しくなるように補聴器の入出力特性を変化させる。これまでの補聴技術では知覚的側面から開発された知覚モデルが用いられてきた。しかし、知覚モデルでは説明困難な聴覚末梢系のダイナミクスが存在し、これが補聴技術の向上を妨げている。この問題を解決するために、本研究では、音の知覚を生み出す聴覚のメカニクスまで踏み込んだモデルを用いる。この研究を通じて、聴覚のメカニクスに基づいたモデルを用いて聴覚の機械的応答を制御し、音の知覚特性が操作可能であることを示す。そして、この技術を補聴へと応用する。 これまでに提案されている聴覚のメカニクスに基づいたモデルの課題は計算コストが多くかかることであった。そのため、今年度はモデルを高速に解くための計算法の開発を行った。従来法を用いたシミュレーションに必要な時間を調べたところ、畳み込み演算に多くの時間が消費されていた。そのため、畳み込み演算を高速フーリエ変換に置き方。その結果、従来法に比べて100倍以上高速に計算を行えるようになった。また、この方法はモデルの空間次元が高くなるほど効果的であったため、従来は困難であった3次元モデルを解くことが可能になった。 以上のことから、本研究は、これまでは多くの時間が必要とされた聴覚のメカニクスに基づいたモデルを数値解法の高速化を行った。これを通じて、聴覚のメカニクスに基づいたモデルが補聴技術に応用可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで聴覚のメカニクスに基づくモデルの欠点は計算に多くの時間を要することであった。そこで、数値シミュレーションにかかる時間を調べたところ、畳み込み演算に多くの時間が消費されていた。そこで、畳み込み演算を高速フーリエ変換に置き換えたところ、計算オーダーが減り、想定している範囲では100倍程度の高速化を行うことができた。そのため、聴覚のメカニクスに基づくモデルを実用するための技術的基盤ができた。また、従来は困難であった3次元モデルの計算を行うことができるようになったため、より精緻なシミュレーションを行えるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
提案した計算法を用いて、聴覚モデルの応答パターンから音波を復元する手法を提案する。しかし、予備実験を通じて、完全に復元することは困難であることが示唆されている。心理実験を通じて、応答パターンの中から復元すべき特徴の絞り込みを行う。そして、新たな補聴技術の創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初出張予定していた国際会議がオンラインで開催もしくは次年度以降に延期されたため。また、数値シミュレーションに必要な計算機の導入を予定していたが、計算法の改良により高速な計算機を導入する必要が無くなったため。 次年度以降は、クラウドソーシングによる実験を計画しているため、その費用が多くかかることが予想される。
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