研究実績の概要 |
今年度は対話時に人が物理的距離に応じて発声を変えると言う、物理的距離感に関し実証する実験を行った。今後の音声合成、分析のため音声収録も行った。 二種類の検証を行い、いずれも被験者4名で1グループ、1名が発話者、3名が聴き手となり役割を交代して実施した。 一つ目は聴き手が呼びかけ角度の異なる声を聞き分けられるか調べる実験で、聴き手役3名を互いに1.5m程度の間隔で発話者に背を向け横一列で並んでもらい、それに対し発話者役が中心の聴き手から1m, 3m, 4mの距離から、実験実施者が指で指示した聴き手に「こんにちは」等と呼びかけてもらうものである。この試行は各距離ごとに9回行った。聴き手役は誰が呼ばれたかの判断を指で示した。距離間隔は、固体距離、社会距離、公共距離(Hall, 1966)に位置するよう設定した。4名の被験者実験の結果、1mでは聴き手役の平均正解率は0.889、3mでは0.815であった。ところが、4mでは0.259とチャンスレベルの0.333を割り、3mから4mへの違いで急激な低下が生じた。4mでは端と中央の聴き手のどちらが呼ばれたかを間違える被験者が急増した。4mは各人に対し意識を向けなくなる公共距離であることが影響している可能性がある。 二つ目は聴き手役3名を発話者役から1m, 2.5m, 4mの距離に斜め1列に並ばせ、距離感の異なる声を聞き分けられるか、一つ目と同様の実験を行った。距離感が普遍的か検証するため、日本人被験者グループ4つ、非日本語話者グループ4つの計32名の被験者に協力頂いた。呼びかける言葉を予め決め、前者は日本語で約11種類、後者は約16種類とした。結果、判別率が最も高い言葉は"Hey"で0.787、最も低い言葉は各人の母国語の「すみません」となった。いずれもチャンスレベルを大きく上回る正解率で、物理的距離により人が発声を変えている現象を実証した。
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