人形浄瑠璃文楽は,3人の人形遣いが独特な人形機構と感情表現の技法を用いて演技を行う.人形の動作は,義太夫節と呼ばれる音楽(義太夫と三味線の演奏)に合わせて行われ,三者一体で舞台を構成する.本研究では,日本独特の三業から抽出された人形カラクリと序破急のメカニズムを基に,新たな柔軟なロボット骨格を設計し,その動作に合わせた人工感情表現を構築する.本研究の成果は以下にまとめる. まず,文楽人形の動作解析により,人形の伸縮や胸関節の動きが義太夫の声や三味線の音と同期していることを発見し,これらの技法が序破急という日本伝統芸能の手法と深く関わっていることを確認した.また,繊細な動きを解析できるヒルベルト・ファン変換を用いた手法を提案し,それにより文楽人形の「ホド」「ズ」という独特のリズムを解析し,このリズムが序破急の表現方法と関連していることを確認した. 次に,文楽人形のインタラクションメカニズムを用いて,CGキャラクターアニメーションのモーションデザインを行い,その有用性を確認した.さらに,ヒルベルト・ファン変換を用いた周波数領域でのモーション解析を基に,深層学習と組み合わせた特徴認識及び生成手法も提案した.特に,抽出した非線形の周波数成分をニューラルネットワークに学習させることで,認識の精度向上及び新しい生成タスク(周波数領域でのスタイル移転・編集)を確認できた. 最後に,ロボットへの文楽人形モーションの実装を試み,周波数領域でのロボットモーションキャプチャ実装手法を提案した.この手法により,モーター性能を考慮した文楽人形の繊細な動きをロボットで再現することが可能となった.また,文楽人形のカラクリを取り入れたロボットの設計も行い,胴体の伸縮や胸関節を組み込むことで,伸縮技法を実現するロボットを作成できた.さらに,これらの研究成果を他分野と連携して社会実装に向けた研究も行った.
|