研究課題/領域番号 |
21K17839
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷 伊織 神戸大学, 情報基盤センター, 助教 (70751379)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 真性粘菌 / 創造的計算 / 逆ベイズ推論 |
研究実績の概要 |
本研究は生命の適応的挙動に着目し,これを契機とした創造的性質の解明を目的とする.具体的には真性粘菌 Physarum polychephalum 変形体の突破的脱出行動をモデル化し,その突破的脱出行動を再現することで,創造的エージェントが持つべき特性について検討を行う. 従来的な機械学習等は所与の目的関数に対して,それらを最小化ないし最大化するようなパラメータ探索問題と位置付けられる.これは目的関数が定義され不変であることを要請し,問題の境界条件が固定的であることを暗黙裏に仮定する.一方,生命が置かれる環境は生命と無関係に変動する.また,観測能の有限性から,生命自身は自身が置かれる生存環境としての境界条件を十全に知ることはできない.このような中で,生命は環境の変動にも適応的に行動し,生存を図る. 本研究では,このような生命の適応的行動を既存の境界条件からの逸脱,すなわち創造的な挙動であるとみなし,その機序を明らかにすることを試みる.具体的には真性粘菌の突破的脱出行動を例とし,そのモデルを提案する.真性粘菌は巨大なアメーバ様生命体であり,寒天培地のような湿潤環境を好み,プラスチックの様な乾燥表面を忌避することが知られている.しかしながら,寒天培地上に環状のプラスチックシートを配置し,その中に真性粘菌を封入すると,一定程度内部領域を探索した後それまで忌避していたプラスチックシートを突破的に乗り越え,外部領域へと逸脱する. このような挙動をモデルにおいて再現するため,本研究では逆ベイズ推論に着目し,ベイズ・逆ベイズ推論に基づくフィードバック機構を組み込んだ新しい真性粘菌モデルを構築した.ベイズ・逆ベイズ推論は真性粘菌の原形質流動に関することなる時間スケールに対応したフィードバック機構となっており,提案モデルは真性粘菌の突破的行動をよく再現することが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
逆ベイズ推論を真性粘菌モデルに組み込む点において,その実装方法の検討に想定以上に期間を要したことが主な要因である. このため,当初予定していた2本腕バンディット問題への適用などの具体的な事例での検討が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
モデルの詳細については概ね検討が終了したので,以後は当初の予定通り,2本腕バンディット問題等の具体的課題において提案モデルの挙動を検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染状況等を鑑み,国際会議等への参加を見送ったことによる. 次年度は主として研究成果の公表にかかる経費に対して予算を執行する予定である.
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