研究課題/領域番号 |
21K17842
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
緒方 思源 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 講師 (50813573)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人工知能 / 絵画 / 感性評価 / 計算モデル / 心理モデル / Semantic Differential法 |
研究実績の概要 |
本研究は、Creative Adversarial Network (CAN)というAI技術[Elgammal ら, 2017]で生成された絵画に対する感性評価の心理構造(段階1)、及び画像特徴量が感性評価に与える影響(段階2)の解明を目的とする。 2020年に研究の準備として、段階1での感性評価実験のプロトタイプを実施した。2022年の半ばまでの間、新型コロナの状況のため、大規模な実験の実施ができなかった。そのため、段階2にまず着手した。具体的には、文献調査により、感性評価に影響できる画像特徴量を収集した。そして、上記の実験で使われた200点のCAN絵画に対して次の3種類の大域特徴量を計算し、各特徴量と絵画に対する嗜好度との関係を分析した:1) 2Dフーリエ変換で得たK空間を元に、周波数上でパワーを平均化した1Dスペクトル、2) パワーの方位角間の等方性、3) Minkowski-Bouligand (MB)次元。 分析の結果によると、CAN絵画の1Dスペクトルは、自然物の写真や人間が描いた絵画などに関する先行研究でよく報告された1/fゆらぎと比較すれば、上向きに曲がっていることが見られる。また、嗜好度で高く評価された絵画が、低く評価された絵画に比べて、全周波数にわたってより大きいパワーをもっている。一つの周波数のパワーは、その周波数をもつパターンの認知的サリエンシーを表すため、認知的サリエンシーが嗜好度に正の影響を与える可能性が示される。一方、パワーの方位角間の等方性は、嗜好度との間に関係が見られない。なお、媒介分析により、MB次元が、新奇性の評価に負の影響を与えることで、嗜好度に正の影響を与えるという効果が少し見られる。 その後、段階1における各実験のプログラムと募集要項を、Qualtricsとクラウドワークスを用いて作成し、兵庫教育大学の倫理審査委員会からの承認を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年の半ばまでの間、新型コロナの状況のため、研究補助者などの人件の面で、及び時間の面で、大規模な実験を行うことが難しくなった。その原因で、段階2の一部の実施を前倒し、段階1における実験の実施の先に行った。 具体的には、まず、画像処理に関する文献調査を通して、画像の感性評価に影響することができると報告された画像特徴量を収集した。そして、CANで生成された絵画作品から大域特徴量を計算し、絵画の嗜好度との間の関係について分析し、前述した初歩的な分析結果が得られた。それら分析結果は、計算モデルの構造を設計する際に、モデルのパーツとして利用する画像特徴量を決定することに対して有用な知見である。 そして、段階1における、感性評価尺度を作成するための実験、及び感性評価を計測するための実験のプログラムと募集要項を、オンライン調査プラットフォームである「Qualtrics」と「クラウドワークス」を利用して作成した。それら資料を、兵庫教育大学の倫理審査委員会からのコメントに基づいて加筆・修正した後、同委員会からの承認を得た。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、まず、段階1における、感性評価尺度を作成するための実験と、完成評価を計測するための実験を実施する。それら実験では、参加者がAI絵画を使用する場面(「応用場面」と略称される)を3つ設定する。場面1では、参加者は、実験で提示されている絵画作品がAIで生成されたものであることを知らない。場面2での参加者は、実験で提示されている絵画作品がAIで生成されたものであることを知っている。場面3では、参加者は、実験で提示されている絵画作品の中で、AIで生成されたものがあることを知っているが、具体的にどの作品がAIで生成されたものなのかを知らない。各応用場面の感性評価実験で得られた評価データから、その応用場面に対応する感性評価の心理次元(因子)を因子分析により抽出する。 次に、段階2における計算モデルの構築と検証を完成する。まず、実験で使われたCAN絵画作品ごとに対して、文献調査で収集した、画像の感性評価に影響できると報告された局所特徴量と大域特徴量を計算する。そして、それら特徴量を入力とし、感性評価の各因子得点を出力とする計算モデルを応用場面ごとに構築する。感性評価実験で得られたデータを用いて計算モデルをトレーニングする。計算モデルを構築する方法として、感性評価に関わる心理関係の複雑性を考慮した上で、人工ニューラルネットワークなどの非線形的な手法を試す。また、モデルの解釈可能性も考慮しているため、重回帰分析も試す。さらに、各応用場面に対して、新しいセットのCAN絵画を利用してもう一つの感性評価実験を行う。この実験で得られるデータを用いて各計算モデルを検証する。また、モデルの内部状態の可視化も工夫し、それが応用場面によってどのように変わるのかについて芸術心理学や視覚心理学などの分野での知見と照らし合わせて考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年の半ばまでの間、新型コロナの状況のため、大規模な実験を実施することができなかった。そのため、本来実験の実施に使用する予定の人件費は支出されていない。実験の実施は2023年度に行いたいので、この支出されていない金額を2023年度の使用額として、実験の実施に利用させていただきたい。2023年度の使用額の使用計画は次のとおりである。 まず、実験参加者に支払う謝金等について、感性評価尺度を作成するための実験はアンケート調査の形式で実施され、7万円かかる。感性評価を計測するための実験は132万円かかる。計算モデルを検証するための実験は132万円かかる。合わせて271万円である。そして、プログラミング、及び実験データの整理と分析を補助する研究補助者を2人雇用したい。研究補助者の雇用に10万円かかる。したがって、人件費は271 + 10 = 281万円かかると想定している。実験を実施するオンライン調査プラットフォームであるQualtricsの利用料は10万円かかる。図書と論文など研究用文献の購入に5万円かかる。また、学会参加費に6万円かかると想定している。以上で合計302万円かかる。
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