研究課題/領域番号 |
21K17857
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
岩田 通夫 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 研究職員 (60746642)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 創薬 / 遺伝子発現 / 微分方程式モデル / 時系列解析 / システム生物学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、数理モデルを用いて、薬がどのような時系列で生体システムに作用しているのか予測し、新しい治療候補薬を網羅的に探索することである。特に、令和3年度の研究実施計画は、ヒト由来細胞特異的な数理モデルを構築し、薬の作用を模倣する時系列データを予測することであった。 研究代表者は、まず、好気的解糖パスウェイと同様にがん治療のための潜在的な治療標的パスウェイとして知られている、クエン酸回路パスウェイに対して構築された既存の数理モデル(代謝物に相当する13種類の従属変数、酵素に相当する35種類の独立変数からなる常微分方程式モデル)を用いた解析を実施した。具体的には、薬の作用を、その薬の既知の標的遺伝子に対する外的な摂動とみなして、薬の作用を時系列で予測した(感度解析)。例として、クエン酸回路パスウェイ上の酵素タンパク質に作用することがデータベースに登録されている薬のうち、急性骨髄性白血病に対する2つの抗がん剤(エナシデニブ、イボシデニブ)の作用を予測した。次に、これらの抗がん剤をヒト由来細胞株に添加したときに観測される遺伝子発現データを取得し、感度解析での予測結果との融合解析により、薬の作用をゲノムワイドに時系列で予測する手法を開発した。具体的には、薬、遺伝子、時間からなる3階のテンソル構造として遺伝子発現データを表現し、そのテンソルに対してテンソル分解アルゴリズムに基づく最適化法を適用することで、任意の時刻における未観測遺伝子発現を予測した。予測結果から、観測値からは検出できなかった薬の作用メカニズムを新たに検出できることが示唆された。本成果は、すでに、論文として国際誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、予定通り、数理モデルを用いた解析により、薬の作用を模倣する時系列データを予測することができた。ただし、手法のプロトタイプの開発を優先したため、研究実施計画で予定していた、化合物応答遺伝子発現データに基づくヒト由来細胞特異的な数理モデルの構築に関しては、引き続き検討中である。 当初計画とは異なり、任意のパスウェイに対して構築された数理モデルを用いて薬の作用をシミュレーションし、得られた結果をその薬の応答遺伝子発現データと比較することにより、薬の作用を模倣する時系列データをゲノムワイドで予測することができる可能性を明らかにした。 一連の数値解析を実施するために必要なデータやプログラム、プラットフォームを整備することができ、今後の研究の円滑な実施が期待できる。以上より、おおむね順調に進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
前年に引き続き、ヒト由来細胞特異的な数理モデルの構築を継続的に実施する。具体的には、99種類のヒト由来細胞に32,855個の低分子化合物を暴露させた時の応答遺伝子発現データ(LINCSデータベースより取得)を用いて数理モデルを構築する。ヒト由来細胞は、由来する組織間で生物学的な特徴が異なるため、細胞特異的な数理モデルを構築する。特に、遺伝子間ネットワークを正しく予測し、数理モデルに含まれるさまざまなパラメータを正しく決定する問題に取り組む。数理モデルが構築され次第、前年に構築済みの手法を用いて数理モデル解析を行うことで、がん全般に対して適用可能な新たな治療候補薬を網羅的に探索する。候補薬のうち、安全性の視点からも有望な候補薬についてはin vitro実験による抗がん作用の検証を行う。得られた成果や知見は、国内外の学術大会、及び、国際誌において発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外の会議やシンポジウムの開催形態が、現地開催からオンライン開催へと変更となり、参加にかかる費用が少なく抑えられたため、次年度使用額が生じた。本年度は、国内外の会議やシンポジウムへの参加費用に加え、現在投稿中の論文の出版費用として、適宜使用していくことを計画している。また、ストレージの購入などを含む、計算リソース強化にも、適宜使用していく予定である。
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