研究課題
高分解能分光放射計で得られる太陽光誘起クロロフィル蛍光(SIF)を用いて陸上植物の光合成による生態系CO2吸収量(総一次生産量GPP)をリモートセンシングで推定する。この際に放射伝達モデルを用いて林冠幾何・分光特性に起因するSIF変動を解析することで、モデル・観測を融合させたより頑強な光合成推定を目指す。山梨県富士吉田市富士北麓Fluxサイト(FHK:35.4 N, 138.8 E)の観測タワーにおいて2021年4月から8月まで観測システムを連続運用し、分光スペクトルデータ(波長領域650-850 nm、波長分解能 0.4 nm)からSIFを導出した。校正光源による照度変換、スペクトルフィッティング法によるSIF算出、関連する植生指数をもとめるプログラムを作成した。3次元放射伝達モデルのための当サイトの林分、個葉データを共同研究者や公開データから収集することができた。SIF観測結果からは、基本的に入射した太陽光エネルギー(PAR)の大きさに依存してSIFが時系列変動を示すことが確かめられた。またスペクトルフィッティング法の適用に当たり広い波長領域(759-767 nm)に比べて狭い波長領域(759.5-761.5 nm)を用いたSIF算出値のほうが晴天時と曇天時の入射光応答の差が抑えられることを示した。カラマツ展葉期に葉面積の指標である植生指数NDVIは0.3から0.6に急激に上昇し、これに連動するようにSIF収率が上昇し、両者は正の相関を示した。時別値のSIFは気温および飽差との応答が見られており、今後さらなる解析によってSIFを利用した植物の光合成速度と環境ストレス応答をより明示できると期待する。
3: やや遅れている
今年度は富士北麓Fluxサイトの高分解能分光放射計によるSIF連続観測と変動要因の解明について、入射光に対する基本的な応答の解析などを予定していた。コロナ禍のため現地調査を極力抑えていたにもかかわらず、遠隔管理によるサイト観測値および気象データを利用することで解析を進め、さらに学会に初期成果を発表することができた。サイト管理については共同研究者による協力が大きい。また、3次元放射伝達モデルのための林分、個葉データを共同研究者や公開データから収集することができた。しかし、次年度予定しているモデル構築のための蛍光スペクトルが富士北麓Fluxサイトで実測できておらず、代替的に所属機関の札幌にて実験室測定を試みた。これは赤色光を含まないLED放射を平面上に並べたカラマツ葉サンプルに照射する実験で、SIFの季節変化の主な要因の一つであるクロロフィル濃度と650-800 nm領域の蛍光スペクトルピーク形状の関係性が規定できる。しかしスペクトル形状が自然条件のような太陽光誘起の場合と異なると指摘されている。このデータを入力値に用いてモデルの作業は進められるが、SIFモデル精緻化のために自然条件下での蛍光スペクトル取得が必要である。
2023年にかけて富士北麓FluxサイトのSIF連続観測を実施する。観測維持のメンテナンスおよびセンサ校正のため現地調査を行う。3次元放射伝達モデルの入力パラメータ収集を完了させ、モデル出力を行う。また共同研究者からのフラックス・微気象データを利用することでSIFによるCO2吸収量の推定についての解析を進める。さらに年度末にかけては、主に観測についての結果をまとめ成果発表を目指す。前年度に不足していた自然条件下の蛍光スペクトルを実測する。季節変化をとらえるために最大年4回の現地観測を予定する。しかしコロナ等の状況によっては現在手元にあるデータを極力利用して研究を推進させる。
本来では年4回計画されていた富士北麓Fluxサイト(山梨県)における現地観測が、COVID-19の影響により実施できなかった。また学会において発表を行ったがオンライン形式で、本予算からは支出されなかった。また、現地観測での利用を見込んでいた測定および解析装置に関しても一部購入を見送ることとなった。次年度は現地観測を予定しており、旅費・現地における測定・解析にかかわる物品および消耗品を使用する。
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