研究課題/領域番号 |
21K17874
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菅井 洋太 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (20896930)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温室効果ガス / 一酸化炭素(CO) / 大気-海洋間のCO交換 / 海表面マイクロレイヤー / 海洋性CO酸化菌 / CO脱水素酵素遺伝子(coxL) |
研究実績の概要 |
一酸化炭素(CO)は間接的な温室効果ガスとして知られており、一般的に海洋は大気中のCOの供給源である。海洋において、COは主に有機物の光化学分解により生成され、CO酸化菌の代謝により消費される。CO酸化は細菌にとって海洋表層における有益なエネルギー獲得方法の1つであるが、海洋で生産されるCOの大部分(80%以上)が大気に放出される前にCO酸化菌によって消費されていると推定されており、CO酸化菌は海洋から大気へのCOの放出およびそれによる温室効果の増大を抑制する役割を担っていると考えられる。特に、海洋の最表層である海表面マイクロレイヤー(わずか1 mm未満)におけるCO動態が、大気-海洋間のCO交換に大きな影響を与えている可能性がある。しかし、このように生態学的・生物地球化学的に重要であるにも関わらず、海表面マイクロレイヤーを含む海洋表層におけるCO酸化菌の群集構造や系統に関する知見は非常に限られている。そこで、本研究では、沿岸域および外洋域における海洋性CO酸化菌の群集構造・系統解析を実施する。環境要因やCO濃度・消費速度を測定し、化学・生物分析と遺伝子解析を組み合わせることにより、海洋性CO酸化菌の組成・活性を生態学的に明らかにする。 これまで、沿岸域(相模湾真鶴沖)および外洋域(南太平洋東部)において調査を実施し、海洋表層(海表面マイクロレイヤー、海面直下)における環境要因(水温、塩分、有機物濃度など)、CO濃度、CO消費速度を測定した。今年度は、海水を濾過したフィルターからDNAを抽出し、抽出されたDNAの濃度を測定した。また、PCRからシーケンシングまでの分析方法およびシーケンスデータの解析方法を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海表面マイクロレイヤーの海水を採取するため、初年度に自動回転式ドラムサンプラーを設計・作製した。今年度はドラムサンプラーに破損が見られたため、その修理とバッテリーの防水仕様への改良を行った。 相模湾真鶴沖(沿岸域)および南太平洋東部(外洋域)において調査を実施し、自動回転式ドラムサンプラーと横型ニスキン採水器を用いて海表面マイクロレイヤー(厚さ 約60 um)と海面直下(深度 0.5 m)の海水をそれぞれ採取した。水温、塩分、有機物濃度などの環境要因、CO濃度、CO消費速度、遺伝子解析のサンプルを採取し、遺伝子解析以外のサンプルについては分析が終了した。遺伝子(CO酸化菌の群集構造・系統)解析のサンプルについては、海水を濾過したフィルターからのDNA抽出および抽出されたDNA濃度の測定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
CO酸化菌の群集構造・系統解析を実施する。CO脱水素酵素の大サブユニットをコードしている遺伝子(coxL)をPCRによって増幅し、PCR産物の精製やインデックス配列の付加を行った後、coxLの塩基配列を決定する。また、メタゲノム解析を行って全配列中のcoxLの割合やcoxLの配列の多様性を調べ、coxLの新しいプライマーの設計についても検討する。得られる配列を用いて系統樹を作成することにより、海洋性CO酸化菌の分類群や系統を明らかにする。このとき、海洋のMAG(Metagenome-assembled genome)カタログの中でcoxLを有する細菌を探索し、解析に加えることも検討する。 coxLの現存量・発現量(海水を濾過したフィルターからのRNA抽出後)を測定する。coxLの定量PCR用のプライマーを設計し、定量PCRマシンを用いてcoxLと16S rRNA遺伝子を増幅・定量する。coxLの現存量・発現量と環境要因やCO消費速度の関係を明らかにするとともに、遺伝子情報やその他のパラメーターを用いてCO消費速度の推定を試みる。 得られる結果をまとめ、国内・国際学会で発表を行うとともに、国際学術雑誌に論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子解析に必要な試薬・消耗品(DNA抽出キットなど)を研究室にある物品や他の研究で使用しなくなった分で賄うことができたため、来年度分への繰り越しが生じた。繰り越し分については、来年度のシーケンシングの費用にする予定である。
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