本研究では、申請者が独自に開発してきた「単一粒子分光分析法」を応用し、未開拓である高イオン強度条件下におけるエアロゾルの化学反応速度定数を決定することを目的とした。速度定数を測定し、エアロゾルのイオン強度との定量的な関係式を導き、大気化学モデルに実装できる基礎データを取得し、高イオン強度の影響を考慮した地球規模でのエアロゾル反応系の再構築を目指した。 2022年度では、NO2ガスのエアロゾル相での加水分解反応の反応次数を決定するため、NO2ガス濃度を0.2 ppmから50 ppmまで変化させて反応実験を行った。反応生成物である硝酸イオンの生成速度とNO2ガス濃度のプロットから、本反応は一次反応であることがわかった。これは不均一反応であることを示唆し、NO2ーエアロゾル反応の速さは粒子径に依存する可能性があることがわかった。そこで粒子径への依存性を検証するため、数マイクロから数十マイクロ程度、粒子径を変化させ、硝酸イオン生成速度を計測した。その結果、粒子径が小さくなるほど、反応速度が高くなることがわかった。 本研究を通して、本反応系はエアロゾルの酸性度と反応速度定数の間には強い相関がなく、エアロゾルのイオン強度に強く依存することがわかった。さらに大気化学モデルに実装可能なデータセットにするため、得られた反応速度定数(kI)とイオン強度(I)との定量的な関係の数式化に試み、対数関数を用いて、log10(kI/kI=0)=0.04Iと記述することが出来た。またイオン強度への依存だけでなく、粒子径へも強い依存性を持つことがわかり、表面反応の重要性を確認することができた。
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