研究課題
本研究では,大気化学で最も重要な化学種の一つであるHOx(OH,HO2,RO2)ラジカルを対象に,気相から微小液滴粒子への取り込み過程と,エアロゾル内部で引き起こる化学反応メカニズムの解明を目指し,気相ラジカルとエアロゾル由来の液相ラジカルの同時検出手法の開発を行うことを目的として実験を行っている。昨年度までに,HOxラジカルの微小液滴への取込過程観測に成功しているため,本年度は,溶液中OHラジカルの検出手法の確立を目指し,実験を行った。溶液中OHラジカルの直接検出は非常に困難であるため,蛍光物質を用いて間接的に検出する手法を用いた。水溶液中にOHラジカルと非常に素早く反応し,OHラジカルとの生成物が紫外線の吸収により蛍光を放出する物質を溶かし,O2の光解離で生成したO3を暴露した。気相中のO3が溶液に溶けると,溶液中の反応により,OHラジカルを生成する。O3暴露した水溶液に308nmの励起光を照射することで,可視領域の発光を分光器で検出することに成功した。さらに,アトマイザーを用いて水溶液から微小液滴を発生させ,微小液滴とO3を反応させる反応管の構築や装置の開発を行った。ガラスのフローセルに微小液滴とO3を流し,粒子からの蛍光をファイバー分光器で検出することを試みたが,蛍光シグナルを検出することは出来なかった。そのため,光電子増倍管等を用いた,より高感度で検出可能な装置の開発に着手した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に着手できなかった溶液中ラジカル検出手法の開発を実施,溶液中の蛍光物質検出装置の構築を行い,さらに,水銀ランプを用いてO3合成を実施し,O3と水溶液との反応により溶液中OHラジカルの生成・検出に成功した。さらに,微小液滴を発生させ,内部でラジカルを生成する装置の構築も実施することが出来た。微小液滴からの直接的な蛍光検出には至らなかったが,検出感度を向上させるための装置開発を進めているため,順調に進んでいると判断した。
本年度は,まず,粒子発生器を用いて微小液滴を発生させ,O3との反応で液滴中にOHラジカルを発生させ,液滴内部の化学反応を用いて蛍光物質を生成する。上記の蛍光物質からの発光を光電子増倍管を用いて検出するための装置開発を行う。そのため,まず,前実験として蛍光物質の標準物質を溶解させた微小液滴を発生させ,その蛍光を検出することを試みる。
本年度,参加予定していた学会がオンラインと対面のハイブリッド開催となり,オンライン参加としたため,使用予定の交通費分が次年度使用額として生じた。次年度使用額は,来年度より構築予定の装置作成のための物品費として使用する予定である。
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Atmospheric Environment
巻: 281 ページ: 119130
10.1016/j.atmosenv.2022.119130