研究課題/領域番号 |
21K17883
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
藤田 遼 気象庁気象研究所, 気候・環境研究部, 研究官 (40823266)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メタン / 同位体比 / 放射性同位体 / 粒子フィルタ / 温室効果ガス / 炭素循環 / 気候変動 |
研究実績の概要 |
重要な温室効果ガスであるメタン(CH4)の全球循環の解明は気候変動対策を推進する上での喫緊の課題であるが、各排出源・消滅源の推定値には大きな不確かさがある。全CH4排出量に対する化石燃料起源の排出寄与を評価する手法として、大気中CH4に含まれる放射性炭素同位体比(Δ14C)を測定することが提案されているが、これまでは観測データ数が少なく、先行研究は限られていた。本研究は、大気中CH4濃度、CH4の安定炭素・水素同位体比(δ13C、δD)および近年新たに得られたΔ14Cの観測データの変動を、数値モデルによって統一的に再現し、全球CH4の各排出源・消滅源の最適な推定値を得ることを目指す。令和3年度は既に開発済みだった数値モデルに新たな改良を加えて、産業革命前から現在にかけての大気CH4濃度およびδ13C、δD、Δ14Cの長期データを統一的に説明する各CH4排出源・消滅源に関する情報(以下、パラメータ)の組み合わせを逆推定した。具体的には粒子フィルタによるパラメータの推定アルゴリズムを開発し、並列計算によって大量のパラメータ組み合わせによるCH4濃度と各種同位体比をシミュレートすることを可能にした。これによって、従来のボトムアップ式の推定値は、自然起源(地殻、湿地等)のメタン放出量を過大評価していること、人為的な微生物由来(農業、廃棄物等)およびバイオマス燃焼由来のメタン排出量を過小評価していることを明らかにした。また、安定同位体比のみを用いた先行結果とは異なり、人為的な化石燃料由来によるメタン排出量は近年の統計値と概ね整合していることを明らかにした。これらの研究成果を地球惑星連合2021年大会で発表し、さらに国際学術誌に投稿した。また、得られたパラメータ推定値を社会経済シナリオ別のCH4排出シナリオに適用して、大気中CH4濃度と同位体比の将来予測に関する初期計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度に計画していた全球1-Boxモデルによる各種パラメータの不確かさを可能なかぎり考慮したモンテカルロシミュレーションは、粒子フィルタによるリサンプリングを導入することによって、多数の実現値を用いて安定的にパラメータ推定をすることが可能になった。これによって、安定的な推定値を得るまでに要する計算時間を当初よりも大幅に短くすることができ、パラメータの事前分布や観測データの違いを考慮した様々な感度テストを行うことが可能になった。得られた研究成果を学会で発表し、さらに論文執筆および投稿までを年度内に完了することが出来た。また、得られたパラメータ推定値を社会経済シナリオ別のCH4排出シナリオに適用して、大気中CH4濃度と同位体比の将来予測計算を行った。これにより、CH4排出経路の推定手段としての同位体観測の有用性を評価・検証するための準備が整った。全体として当初の計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った社会経済シナリオ別の大気中CH4濃度と同位体比の将来予測計算結果について、各種排出源のCH4濃度と同位体比への変動寄与をさらに調べ、将来的な同位体観測による全球CH4排出経路の差異を検出するための有用性を定量的に評価する。得られた結果を国内・国際学会にて発表し、論文を準備・投稿する。また令和3年度に推定した各種パラメータを3次元大気輸送モデルに適用して、大気中CH4濃度、δ13C、δD、Δ14Cの観測システムシミュレーション実験(OSSE)を行う。また、令和3年度末に投稿を完了したメタン排出源・消滅源パラメータの最適化に関する研究について、査読結果が戻り次第、改定作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響に伴い、国内外の学会が全てオンライン開催となり、旅費が不要となったため、未使用額が生じた。次年度で消耗品の購入や学会発表および論文投稿費に充てることにしたい。
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