サンゴ礁生態系はCO2増加による地球温暖化および海洋酸性化の危機に直面している。その生態系を支えるサンゴは刺胞動物だが、体内に共生している褐虫藻の光合成によってエネルギーの大半を得て、自らの骨格を形成(=石灰化)する特殊な生物である。したがって、共生関係である褐虫藻の光合成とサンゴの石灰化を指標として、水温(地球温暖化)とCO2(海洋酸性化)の複合ストレスを評価する必要がある。光合成応答は、海水中の溶存酸素(DO)の変化から既存の技術で求めることができる。一方、石灰化のシグナルであるアルカリ度について、申請者は独自の計測システムを開発し、分スケールでのリアルタイム計測を可能にした[Yamamoto et al. 2020]。そこで本研究では、開発した計測システムをサンゴの実験系に適用し、今まで把握できなかった分スケールでの光合成及び石灰化応答を捉えることに挑戦した。その結果、枝サンゴであるウスエダミドリイシの石灰化応答と共生している褐虫藻の光合成応答のリアルタイム観測に成功した。また、様々な光量条件下でヒメマツミドリイシの石灰化を連続観測したところ、1000μmol/m2/sを超える強光条件下では、石灰化が阻害されることがわかった。本研究を通じて、申請者が開発した微量連続アルカリ度計測装置と既存の溶存酸素計を組み合わせた実験システムを用いることで、サンゴの石灰化と褐虫藻の光合成応答を分スケールで測定する手法を確立することができた。今後、本手法によって、サンゴと褐虫藻の共生関係の理解がより一層深まることが期待される。
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