研究課題/領域番号 |
21K17886
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
栗栖 美菜子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), Young Research Fellow (80880864)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海洋エアロゾル / 鉄安定同位体比 / 北太平洋西部域 / 化学種 / 海洋大気 |
研究実績の概要 |
本研究では、海洋大気中の微小粒子(エアロゾル)中の鉄に着目し、その溶解性の支配要因を探る。背景として、可溶性の鉄が海表面に供給されることで、植物プランクトンによる有機物生産を促進し、海洋の炭素循環や気候変動に影響することが挙げられる。溶解性を支配する要因として、鉄の供給源の違い(鉱物粒子か、人為起源か)や大気輸送中の化学反応による化学種の変化が考えられる。本研究では鉄安定同位体比の違いがエアロゾル中の鉄の起源の指標になるという発見をもとに、洋上で採取した粒径別エアロゾルに対して、同位体分析により起源を明らかにした上で、大気輸送中の反応を反映する鉄化学種も分析し、鉄の溶解に寄与する要因を明らかにする。 2021年度は、2021年2-3月に北太平洋西部亜寒帯域から亜熱帯域にわたる範囲で行われた海洋地球研究船「みらい」のMR-21-01航海において採取されたエアロゾルの鉄や他の微量金属元素の濃度分析を進めた。また、放射光実験施設において鉄化学種の分析も進めた。 エアロゾルはアジアからの空気塊を得たものが多く、海洋エアロゾルとしては高濃度を示す試料が多かった。人為起源の指標とされる亜鉛やバナジウムなどは、特に微小粒子において豊富に含まれており、海洋エアロゾル中に人為起源エアロゾルも含まれていることが示唆された。 鉄化学種は、海域や空気塊の違いによって変化が見られた。特に一部試料の微小粒子中には溶解性の高い硫酸鉄やシュウ酸鉄が含まれていた。この後同位体分析や抽出実験を進めることで、この化学種の違いが起源の違いによるものか、大気中での反応によるものかを明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、エアロゾル試料中の全鉄の濃度分析、放射光実験施設における鉄化学種の分析を進めた。いずれも目的としていた試料の分析を順調に終えることができた。2022年度には抽出実験や同位体分析の結果を併せてさらに解析を進めていく予定である。 一方、同位体分析は想定していたよりも進まなかった。同位体分析は、測定前の装置のコンディショニングが非常に重要であるが、装置のトラブルが多かったこと、安定した状態に到達するのに想定していたよりも時間がかかり、実試料の分析に円滑に移ることができなかった点がひとつの要因であると考えている。2022年度は装置の調整時間を長めに想定した上で十分に分析に時間を割く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には同位体分析と抽出実験を進めていく。同位体分析は、手法は確立済みである。装置の調整に時間がかかることを想定して、長めに分析時間を確保した上で、年度内に全ての試料の分析を終える予定である。抽出実験は、エアロゾル試料に超純水を添加し、溶存成分のみを取り出して濃度と同位体分析を進める。鉄の含有量によっては同位体分析が困難であることも想定していたが、全鉄の分析結果から、ほとんどの試料で分析が可能だと予想している。 分析を進めながら、適宜解析も進めていき、学会での発表も行っていく。3年目には論文投稿ができるように準備を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は主に実験や分析に用いる備品の購入等に使用することを予定していた。そのうち、同位体分析装置に用いるネブライザー類は種類の検討段階であり、2022年度に購入することとしたため未使用が生じた。2022年度はネブライザー等の購入と、高純度酸類やアルゴンガスなどの消耗品、国内学会や放射光実験の旅費、参加費等に費用を充てる予定である。
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