本研究では、放射線防護/緩和剤を処置した重度急性放射線症候群発症モデルマウスを用いて、放射線誘発組織障害修復に対するMuse細胞または分泌される細胞外小胞の機能との関連性を検討する。さらに、被ばく個体に対してそれらを施すことによって、被ばく個体の致死回避が可能かどうかを検証する。アミフォスチン(AMF)やロミプロスチム(RP)、その溶媒として生理食塩水(NSS)を致死線量放射線全身ばく露(TBI)マウスへ被ばく前後で投与し、その生存個体の血清から被ばく後経時的に細胞外小胞を回収した。RP投与したTBI個体(TBI+RPマウス)の脾臓では被ばく後経時的に間葉系間質・幹細胞の増加が認められた。TBI+RPマウスから一週間毎に細胞外小胞を回収し、別のTBI個体へ投与を行ったところ、いずれの回収日においても高い救命効果が認められた。その他、non-TBI+NSS、non-TBI+RP、TBI+NSS、およびAMF+TBIマウスから回収した細胞外小胞では救命効果はなかった。TBI+RPマウス由来の細胞外小胞とTBI+NSS由来の細胞外小胞の内在分子を調べたところ、救命効果を示す細胞外小胞にはmiR-144-5pが、救命効果を示さない細胞外小胞にはmiR-6354が特異的に含まれていた。また、miR-144-5pの由来臓器を調べると脾臓や肺における発現が最も高く、救命効果を示す細胞外小胞およびその内在分子miR-144-5pがこれら臓器から放出されている可能性が高い。miR-144-5pの標的遺伝子を用いたKEGGパスウェイ解析ではHippo signal pathwayが、Gene Ontology解析では細胞死促進に関するGo termが候補に挙がり、本研究におけるmiR-144-5pも細胞死誘導に関与する遺伝子群を標的とすることで放射線障害の軽減に寄与している可能性が考えられる。
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