研究課題/領域番号 |
21K17889
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
日下部 将之 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 助手 (40899019)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ヌクレオチド除去修復 / クロマチン / ヒストン脱アセチル化 / 色素性乾皮症 |
研究実績の概要 |
本研究は、ゲノム全体を対象としたヌクレオチド除去修復の損傷認識因子XPCが、生体内において発生した損傷を効率よく認識するための補助機構を解明することを目的としている。代表者の所属する研究室は、DNA損傷部位のヒストン脱アセチル化を介してXPCの呼び込みが促進されることを示唆する結果を得ていた。しかし、DNA損傷部位のヒストン脱アセチル化を引き起こす因子や、XPCと低アセチル化ヒストンとの相互作用様式は明らかになっておらず、この補助機構の詳細は不明であった。代表者は脱アセチル化酵素阻害剤やsiRNAを用いた発現抑制を行い、HDAC1/2がDNA損傷部位のヒストン脱アセチル化を引き起こす因子であることを同定した。また、ヒストンが低アセチル化状態であり、DNA染色色素によって視覚化可能な高度なヘテロクロマチン構造を保有するマウス胎児由来繊維芽細胞を用いることで、XPCがヘテロクロマチンに局在することを見出した。この特徴的な局在を指標として、XPCにおけるヒストンとの相互作用領域を探索したところ、XPCの中央に存在する天然変性領域(XPC-M)が低アセチル化ヒストンとの相互作用領域であることが見出された。昆虫細胞を用いてXPC-Mを発現・精製しペプチドプルダウンアッセイを行った結果、XPC-Mは非アセチル化状態のH3テールと直接結合し、アセチル化修飾の導入によって相互作用が減弱することが見出された。さらに、XPC-Mの生理的意義を明らかにするため、XPC-Mを欠失した変異体XPCと野生型XPCを内在性XPCを欠損した細胞に発現させ、損傷部位への集積や紫外線誘発損傷の修復速度を定量したところ、変異体を発現する細胞では両定量結果ともに減弱することが示された。これらは、XPC-Mを介した非アセチル化H3との相互作用は生体内における効率的な損傷認識に重要であることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度はXPCと低アセチル化ヒストンとの相互作用に着目して研究を実施したが、本年度の特筆すべき成果として下記の二点が挙げられる。 (1)これまで機能が報告されていなかったXPCの中央部に存在する天然変性領域(XPC-M)が、低アセチル化ヒストンとの相互作用領域であることを見出し、さらにXPC-Mと非アセチル化H3テールが直接結合することを生化学的解析により示した。 (2)XPC遺伝子欠損細胞を用いた機能相補解析によって、XPCと非アセチル化H3との相互作用が効率的な損傷認識に重要であることを示した。 これらの生化学的・遺伝学的解析の結果を令和3年度内に得られたことは、当初の計画を上回る進展である。さらに、代表者らはこれらの研究成果をまとめて論文投稿を行い、令和3年度内に学術誌への掲載も達成している。以上より、令和3年度の研究進捗は当初の計画以上であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の研究において、XPCと低アセチル化ヒストンとの相互作用様式・生理的意義に関しては大枠の解析は達成したので、今後はLacO-LacIの系を基盤としてXPCの呼び込みを引き起こす新規因子の探索・機能解析を実施する予定である。代表者は既に、染色体上にLacO配列を挿入したU2OS細胞を親株として、EGFP-XPCを安定発現する細胞を樹立している。この細胞に対して、質量分析によって得られたXPCの新規相互作用因子とLacIの融合タンパク質を発現するプラスミドDNAを導入・発現させ、EGFP-XPCのLacO領域への呼び込みを引き起こす因子の探索を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により対面での学会参加がキャンセルになったため。次年度はこの使用額を試薬などの消耗品購入に回し、さらなる研究遂行を行う予定である。
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