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2023 年度 実施状況報告書

ヌクレオチド除去修復の損傷認識を促進する新規機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21K17889
研究機関神戸大学

研究代表者

日下部 将之  神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 助手 (40899019)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワードヌクレオチド除去修復 / 色素性乾皮症 / ヒストン脱アセチル化 / クロマチン / 天然変性タンパク質
研究実績の概要

本研究は、ゲノム全体を対象としたヌクレオチド除去修復の損傷認識を担うXPCタンパク質に焦点をあて、生体内においてXPCの損傷認識を補助する新規因子の同定・機能解明を目的としている。令和5年度は、これまでの研究によって明らかにされたXPCとヒストンH3テールの詳細な相互作用様式の解析に注力した。
代表者らのこれまでの研究によって、XPCは中央部に位置する天然変性領域(XPC-M領域)を介してヒストンH3テールと直接結合し、この相互作用はヒストンへのアセチル化修飾によって減弱することが見出されていた。しかし、ヒストンH3テールにはアセチル化修飾を受ける複数のリジン残基が存在するが、どのリジン残基がXPCとの相互作用に重要であるかは不明であった。これを明らかにするため、グルタミンに置換するアセチル化模倣変異を1アミノ酸ずつ導入したH3テールをN末端側に融合した組換えGSTタンパク質を発現・精製し、これらとXPC-M領域の相互作用をGSTプルダウンアッセイにより解析した。この結果、XPC-M領域とH3テールの相互作用はH3テール上の特定のリジン残基に対する依存性は低く、H3テール全体の総電荷が正に偏っていることが重要であることが示唆された。重要なことに、XPC-M領域には酸性アミノ酸が集積した領域(酸性ブロック)が二つ見出された。XPC-Mがこれらの酸性ブロックを介してH3テールと相互作用するか検証するため、酸性領域を欠失したXPC-M変異体をヘテロクロマチンの可視化が容易なマウス胎児由来繊維芽細胞に安定発現させ、核内局在を解析した。全長のXPC-Mはヒストンが高度に低アセチル化されているヘテロクロマチンに局在する一方、酸性ブロックを欠失することによってヘテロクロマチン局在は有意に減弱することが見出され、先の可能性が支持された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和5年度は、代表者らのこれまでの研究によって明らかにされたXPCとヒストンH3テールの相互作用様式を解明するため、生化学的解析・細胞生物学的解析を実施した。特定の立体構造を形成しない天然変性領域であるXPC-M領域がいかにヒストンH3テールと相互作用し、これが翻訳後修飾によって制御されるかは興味深い問いであるが、未解明であった。
様々なアセチル化模倣変異を導入したH3テールとGSTの融合タンパク質を用いた詳細な生化学的解析により、XPC-Mは特定のリジン残基を認識するのではなく、巨視的な総電荷の偏った領域(電荷ブロック)同士の静電相互作用によってH3テールと結合するという着想に至った。そして、マウス線維芽細胞を用いた細胞生物学的解析によって、XPC-Mの酸性ブロック領域が低アセチル化状態のヒストンH3テールの相互作用に重要であることを支持する結果も得られた。これらの結果は、本研究課題の目標である、生体内におけるXPCの損傷認識制御機構を理解する上で非常に重要な着想・発見である。さらに、電荷ブロック型のタンパク質間相互作用は、近年注目を集めている液-液相分離を制御するタンパク質間相互作用の一つであり、生体内においてヌクレオチド除去修復が液-液相分離によって制御されるという新展開にもつながることが期待される。以上より、令和5年度の研究進捗は順調に進展していると評価した。

今後の研究の推進方策

今後は、XPC-Mの酸性ブロック領域がヒストンH3テールの直接結合に重要であるか明らかにするため、酸性ブロックを欠失した変異体、もしくはXPC-Mの配列をランダムにした変異体を昆虫細胞を用いて発現・精製し、これらとH3テールの相互作用をプルダウンアッセイにより解析する。また、同様の変異を導入したXPCタンパク質を内在性XPCを破壊したU2OS細胞に安定発現させ、DNA損傷部位への集積や紫外線誘発損傷の修復に影響が生じるか、細胞生物学的解析により明らかにする。
また、代表者らは令和4年度の研究において、XPCを呼び込む活性を有する新規因子としてH3K9メチル化酵素EHMT1も同定しており、EHMT1がXPCの損傷認識を補助する分子機構の解析も実施する予定である。具体的には、9番目のリジン残基へメチル化を導入したH3テールを用いて、XPC-Mとの相互作用に影響が生じるかプルダウンアッセイにより解析する。また併行して、siRNAや薬剤を用いてEHMT1を発現抑制・機能阻害した際に、XPCの損傷部位への集積や紫外線誘発損傷の修復に影響が生じるか、細胞生物学的解析により明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

来年度はこれまでの研究成果をとりまとめ、学会発表および学術誌への投稿を予定しており、旅費・掲載料としての使用額が多くなるため一部直接経費を次年度使用額として申請した。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件)

  • [雑誌論文] Fluorescence-microscopy-based assay assessing regulatory mechanisms of global genome nucleotide excision repair in cultured cells2023

    • 著者名/発表者名
      Kusakabe Masayuki、Sugasawa Kaoru
    • 雑誌名

      STAR Protocols

      巻: 4 ページ: 102378~102378

    • DOI

      10.1016/j.xpro.2023.102378

    • 査読あり
  • [学会発表] ヌクレオチド除去修復の損傷認識制御におけるヒストン修復の役割2023

    • 著者名/発表者名
      日下部将之、前田拓海、綿田瑞希、各務恵理菜、菅澤薫
    • 学会等名
      第27回DNA複製・組換え・修復ワークショップ
  • [学会発表] 損傷クロマチン基質を用いたヌクレオチド除去修復制御機構の生化学的解析2023

    • 著者名/発表者名
      古園英嗣、多田遥人、日下部将之、菅澤薫
    • 学会等名
      日本遺伝学会第95回大会
  • [学会発表] ゲノム全体を対象としたヌクレオチド除去修復の損傷認識制御におけるヒストン修飾の役割2023

    • 著者名/発表者名
      日下部将之、前田拓海、綿田瑞希、各務恵理菜、乙部瑞貴、藤原叶枝、菅澤薫
    • 学会等名
      日本放射線影響学会第66回大会
  • [学会発表] ヌクレオチド除去修復のDNA損傷認識を制御するクロマチン構造変換機構2023

    • 著者名/発表者名
      藤原叶枝、槌田千輝、日下部将之、草尾佳那子、八鍬聖、酒井恒、横井雅幸、菅澤薫
    • 学会等名
      第46回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] ヒストン翻訳後修飾を介したXPCタンパク質の核内局在制御2023

    • 著者名/発表者名
      乙部瑞貴、日下部将之、各務恵理菜、槌田千輝、塩月陽人、酒井恒、横井雅幸、菅澤薫
    • 学会等名
      第46回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] ゲノム全体を対象としたヌクレオチド除去修復の損傷認識を制御するクロマチン動態2023

    • 著者名/発表者名
      日下部将之、前田拓海、綿田瑞希、藤原叶枝、各務恵理菜、乙部瑞貴、酒井恒、横井雅幸、菅澤薫
    • 学会等名
      第46回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] ヌクレオチド除去修復のDNA損傷認識制御におけるヒストンH3K9メチル化修飾の役割2023

    • 著者名/発表者名
      綿田瑞希、日下部将之、前田拓海、各務恵理菜、横井雅幸、酒井恒、菅澤薫
    • 学会等名
      第46回日本分子生物学会年会

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公開日: 2024-12-25  

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