研究課題/領域番号 |
21K17890
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松井 亜子 九州大学, 生体防御医学研究所, 学術研究員 (00892126)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | マウス胚性幹細胞細胞 / BLM / 放射線線量率効果 / 脳内免疫 / 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
低線量・低線量率放射線発がんリスクに関する正確な科学的知見の不足は、医療被ばく、職業被ばくや原発事故による被ばくの発がんリスク推定を困難なものとする原因の一つとなっており、このことは解決が急がれる問題とされている。我々は、放射線発がんにおける線量率効果のメカニズムを解明するために、遺伝的背景の異なる大腸がんモデルマウスを用いた発がん実験を行い、染色体組み換えが発がんへの線量率効果を生じさせる要因である可能性を見いだした。そこで、本研究では染色体組み換え制御因子BLMに着目し、マウス胚性幹細胞および遺伝子改変マウスを用いて、放射線発がんにおける線量率効果がBLM依存的な染色体組み換えから受ける影響を明らかにすることを目的とする。さらに、脳内の免疫細胞の機能にも注目し、発がんや脳内炎症性疾患における免疫応答について新たな知見を得ることを目指す。 本年度は、in vitro実験を行い、放射線照射細胞でみられる染色体組み換えにおいて、遺伝的背景に依存した線量率効果の有無を検討した。ゲノム変異を検出するためにゲノム編集技術をほどこした遺伝的背景の異なる2種類のマウス胚性幹細胞に線量率の異なるガンマ線を照射し、その細胞から染色体組み換えを検出できる実験系を確立した。この実験系を用い、染色体組み換えに遺伝的背景に依存した線量率効果がみられることを確認し、さらにその効果がBLMの機能に依存することを示唆する結果が得られている。 また、免疫応答に関する知見を得るため、脳内の制御性T細胞(Treg)の機能に着目することとした。神経炎症時に脳Tregが誘導されるメカニズムを明らかにすることを目的とし、神経炎症時のマウス脳内免疫細胞についてのシングルセルRNAシークエンスやFACS解析、神経炎症マウスへのTregの移入を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、一年目の計画としていた、マウス胚性幹細胞を用いた実験系の確立、染色体組み換えにおける線量率効果の検討は順調に進めることができた。 しかし、異動のために研究内容を方向転換することとなり、研究計画を大幅に変更せざるを得なくなった。本年は、脳内免疫機構の解析を行うための手技の習得や研究状況の把握が中心であったため、研究が進展しにくい状況であった。しかし、今後の研究につながるデータ解析や条件検討を進めることができており、次年度の見通しを立てることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
脳内制御性T細胞(Treg)誘導メカニズムを明らかにすることを目的とした研究計画に変更する。脳梗塞や神経変性疾患モデルマウスの脳や脊髄のTregのシングルセルRNAシークエンスの結果をもとに、クローナルに増殖しているTCRを選択、クローニングする。次にそのTCRを導入したTregを脳内炎症モデルマウスへ移入し、Tregが脳内へ浸潤するかを確認することで脳Treg誘導TCRを同定する。並行して、脳Treg誘導抗原を同定するために、脳内炎症マウスの脳および頸部リンパ節に存在するペプチドをLC-MS/MSにより検出する。また、脳内炎症時のマウスからTregを含めた免疫細胞を単離し、シングルセルRNAシークエンスを用いて免疫細胞の分布や分化、活性状態を調べることで、脳Tregを誘導する微小環境を調べていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
異動のための研究計画の変更に伴い、当初計画していた使用計画も変更しなければならず、今年度中に全額を使用できませんでした。次年度は、セルソーターを用いた細胞分画の頻度が増え、LC-MS/MS解析を本格的に行うため、研究所の共通機器使用料や技術支援料が多くかかる予定なので、その費用に本年度使用できなかった資金を使用いたします。
|