研究課題
低線量・低線量率放射線発がんリスクに関する正確な科学的知見の不足は、医療被ばく、職業被ばくや原発事故による被ばくの発がんリスク推定を困難なものとする原因の一つとなっており、このことは解決が急がれる問題とされている。我々は、放射線発がんにおける線量率効果のメカニズムを解明するために、遺伝的背景の異なる大腸がんモデルマウスを用いた発がん実験を行い、染色体組み換えが発がんへの線量率効果を生じさせる要因である可能性を見いだした。そこで、本研究では染色体組み換え制御因子BLMに着目し、マウス胚性幹細胞および遺伝子改変マウスを用いて、放射線発がんにおける線量率効果がBLM依存的な染色体組み換えから受ける影響を明らかにすることを目的とする。さらに、脳内の免疫細胞の機能にも注目し、発がんだけではなく脳内炎症性疾患における免疫応答について新たな知見を得ることを目指す。昨年度は、マウスES細胞を使用し、放射線照射によりおこる染色体組み換えへの線量率効果の検証およびBLMの機能の関与を示す研究を行った。本年度は、脳内炎症性疾患における脳内の免疫応答に関する知見を得ることを主とし、制御性T細胞(Treg)に着目した研究を行った。神経炎症時に脳Tregが誘導されるメカニズムを明らかにすることを目的とし、脳梗塞モデルや実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスの脳内TregについてシングルセルRNA seシークエンスを行い、TCRレパトア解析を行った。その結果、Tregで特にオリゴクローナルに増殖しているTCRが検出された。Tregの機能に関し、本年度からは、脳梗塞モデルマウスにみられる虚血抵抗性へのTregの関与に関する研究にも取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
初年度は異動のため、放射線発がんにおける線量率効果に関する研究のから脳内炎症時の免疫応答に関する研究を主に行うこととなった。初年度は手技の習得や条件検討が主であったが、本年度は初年度の経験を活かして実際のデータを取得できてきている。シングルセルRNAシークエンス解析を用い、Tregだけではなくその他の免疫細胞や脳細胞を広く解析することで新たな知見をいくつか得ることができている。
脳内制御性T細胞(Treg)誘導メカニズムを明らかにすることを目的とした研究を引き続き行う。脳梗塞やEAEマウスの脳や脊髄のTregのシングルセルRNAシークエンスの結果をもとに、クローナルに増殖しているTCRを選択、クローニングする。次にそのTCRを導入したTregを脳内炎症モデルマウスへ移入し、Tregが脳内へ浸潤するかを確認することで脳Treg誘導TCRを同定する。並行して、脳Treg誘導抗原を同定するために、脳内炎症マウスの脳および頸部リンパ節から、抗原提示細胞とT細胞のダブレットを回収し、T細胞に提示されているペプチドを精製しLC-MS/MS解析を行う。また、脳内炎症時のマウスからTregを含めた免疫細胞を単離し、シングルセルRNAシークエンスを用いて免疫細胞の分布や分化、活性状態を調べることで、脳Tregを誘導する微小環境を調べていく。
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Inflammation and Regeneration
巻: 43 ページ: -
10.1186/s41232-023-00257-7
Frontiers in Immunology
巻: 13 ページ: -
10.3389/fimmu.2022.960036.