研究実績の概要 |
ミトコンドリアは、独自のゲノム(mtDNA)を有しており、ヒトの場合、16,569塩基対の環状多コピーゲノムとして一細胞当たり数十~数千コピーが存在し、母性遺伝する。しかし、このmtDNAコピー(mtDNAcn)の複製・維持機構に関する分子メカニズムや、その生理的・病理的意義は依然として解明されていない。本研究の目的は、mtDNAcnがどのように遺伝継承され、母の妊娠中の環境影響などにより子のmtDNAcnがどのように修飾され、出生時体重などに影響を及ぼすのか明らかにすることである。 2023年度は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(以下、ToMMo)より分譲された「ToMMo三世代コホート調査」参加者の7人家族(父方祖父母、母方祖父母、父母、新生児)149組、合計1041名分の末梢血、臍帯血由来DNA試料から測定したmtDNAcnと、妊娠中の母親因子や出生アウトカムとの相関を詳細に検討した。 本研究は1000名以上の三世代家族から、末梢血、臍帯血由来mtDNAcnを測定し、mtDNAcnを規定する遺伝的要因、環境要因を検討した初めての分子疫学研究である。研究期間全体を通じて、①母親の末梢血mtDNAcnは、男性新生児の臍帯血mtDNAcnとの負の相関がみられること、②男性、女性新生児ともに臍帯血mtDNAcnは、出生アウトカムの中で在胎週数、出生体重、頭囲と負の相関がみられること、とくに妊娠時の母親因子の中から葉酸摂取と負の相関がみられることを明らかにできた。一方、妊娠期間中の喫煙歴、飲酒歴などの環境養親による母体血ミトコンドリアDNA量の変化、とくにとmtDNAcnについては明らかではなかった。これらの結果から、mtDNAcnが出生アウトカムに関する有望なバイオマーカー候補であること、そして妊娠時の母親への介入によって出生アウトカムを改善できる可能性が示唆された。
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