研究課題
耐性菌発生源の追究と制御は喫緊の課題であるが、現在耐性菌はヒトのみならず動物・環境からも検出されおり、多角的な解析と包括的な理解が必要である。本研究は、ヒトおよび環境排水中に分布する耐性菌の耐性遺伝子や菌の特徴について遺伝学的背景から解明し、また耐性遺伝子拡散機構について明らかにすることを目的としている。研究開始期間の初年度は、病院排水サンプルの採取と菌株の分離・保存を行った。研究協力の得られた国内の医療機関1か所から毎月1回病院排水のサンプリングを計12回実施した。各種選択培地を用いてカルバペネム耐性腸内細菌目細菌、ESBL産生菌、カルバペネム耐性緑膿菌、カルバペネム耐性アシネトバクター、MRSA、VREなど医療関連感染対策上問題となる薬剤耐性菌をターゲットに菌株を分離培養し、分離された菌株について質量分析(MALDI-TOF MS)による菌種同定を試みた。結果、毎月採取したサンプルより、腸内細菌科、アシネトバクター属、シュードモナス属など多様な菌種より薬剤耐性グラム陰性桿菌が分離され、計1,597株を保存した。またヒト臨床株については、IMP-1を産生するComamonas thiooxydansが本邦で初めて分離され、その耐性遺伝子の位置や獲得機構を解析するため、性状および全ゲノム解析を行った。その結果、この株の持つIMP-1は約30kbpのプラスミド上にコードされ、上流にはIS26が位置しており、これまで報告のないプラスミドの構造をもつことが明らかとなった。これは国内の学会において発表を行うとともに論文として報告した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画の通り、病院排水とヒトから分離される薬剤耐性菌の分子遺伝学的特徴の比較のため、国内の医療機関からの病院排水を1回/つきサンプル採取し耐性菌分離、保存を実施することができた。また、排水から検出された薬剤耐性菌のうち、特徴的な菌株については、次世代シークエンスによりゲノム配列を決定し、現在詳細な解析を実施しているところである。今後も継続してサンプリングと菌株の解析を実施するとともに、ヒト由来株についても収集し、両者の比較を行っていく。
研究開始より1回/月病院排水のサンプリングを行ってきたが、薬剤耐性菌の分離状況について経時的な変化を観察するため、今年度も引き続き病院排水を採取し、耐性菌の分離、性状解析を進めていく。またヒト臨床から分離される薬剤耐性菌についても採取し、同様の解析を行い、環境分離株との比較を行っていく予定である。さらに、ヒトと病院排水の両方から共通して分離された菌株や、環境特有の耐性菌については、次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析により、耐性遺伝子の位置や獲得機構など詳細な解析を加える予定である。
初年度は、医療機関病院排水からの薬剤耐性菌の分離と解析を中心に行ってきた。次年度はヒトから分離された薬剤耐性菌についても加えて解析を行う予定であり、その解析費用が必要となるため、次年度に繰り越すこととした。
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Frontiers in Microbiology
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10.3389/fmicb.2022.808993.