研究実績の概要 |
本研究では、分解性が高いものの、二枚貝幼生への影響が懸念されている防汚物質(DCOIT)について、DCOITの分解性および二枚貝幼生の生態学的特性に基づき、より適切なリスク評価を行うことを目的として、最終年度は以下1)~3)の研究を行った。 1)分布域および移動経路における汚染実態の解明:令和3年度および令和4年度に引き続き、所属機関が所有する調査船を用い、広島湾におけるこれまでの浮遊幼生調査で得られた、カキおよびアサリ幼生の分布域や移動経路における汚染実態を調べ、経年変化を明らかにした。 2)水温の違いが毒性に及ぼす影響の解明:DCOITの分解速度や受精卵の発生速度は水温の影響を受ける可能性があることから、異なる水温で毒性試験を行い、水温の違いによる毒性への影響を明らかにした。 3)カキおよびアサリ幼生に対するリスク評価:カキ幼生については、すでに得られている毒性値(Onduka et al., 2021)、アサリ幼生については、本研究で得られた毒性値を1)で得られた実環境中濃度と比較することにより、DCOITのカキおよびアサリ幼生に対するリスク評価を行った。
研究期間を通じて広島湾におけるDCOIT汚染の経年変化を調べた結果、海水中DCOITの最高濃度は、二枚貝幼生に対するDCOITの最低影響濃度に近い値であった。また、DCOIT分解産物であるオクチルアミンの二枚貝幼生に対する毒性は、DCOITの10万分の1以下であったことから、二枚貝幼生に対するDCOITのリスクを評価する上で、分解産物の毒性の寄与は極めて低いことが明らかとなった。19℃~31℃で行った毒性試験の結果、アサリでは22℃、マガキでは25℃において幼生の奇形率が最も低く、水温の上昇に伴って奇形率が増加する傾向が認められたことから、リスク評価において、DCOITと水温の複合影響を考慮する必要性が明らかとなった。
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