研究課題/領域番号 |
21K17911
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
上田 祐生 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (80806638)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フルオラス溶媒 / 溶媒抽出 / 金属資源リサイクル / 凝集現象 / 第三相 |
研究実績の概要 |
本研究では、強力な疎水性を有するフルオラス溶媒を希釈剤とすることで、第三相を生成させず水相との相互溶解を抑制したフルオラス抽出系を構築し、低環境負荷型の新たな分離システムを目指す。さらに、抽出の際の水和水をフルオラス溶媒の強力な疎水性により排除することにより、従来の抽出系を凌駕する高い抽出能力や分離性能が期待できる。 本年度は、まず、工業用抽出剤であるリン酸トリブチルを部分的にフッ素化したフルオラス抽出剤の合成を実施した。フルオラス抽出剤は、市販の2つの試薬の脱水縮合反応により高収率(90%)で合成することができ、さらに過剰の反応物は蒸留により簡便に回収できることが明らかとなった。次に、合成したフルオラス抽出剤とリン酸トリブチルの中性化学種(ZrO(NO3)2、Zr(NO3)4)とカチオン種(La3+、Eu3+、Lu3+)に対する硝酸溶液からの抽出・分離性能を比較した。その結果、フルオラス抽出剤はリン酸トリブチルよりも強力なZr(IV)の抽出能力およびランタノイド元素の分離性能を発揮した。さらに、リン酸トリブチルでは第三相を生成してしまう高濃度のZr(IV)や硝酸を含んだ水溶液からの抽出においても、フルオラス抽出剤は第三相を生成することはなかった。抽出相の組成分析、31P 核磁気共鳴スペクトル、赤外吸収スペクトル、蛍光寿命スペクトル、広域X線吸収微細構造スペクトルなどの結果から、フルオラス抽出剤とフルオラス溶媒の強力な疎水性により、酸分子や水分子(配位水)の共抽出が抑制され、非常に高い抽出能力や分離性能が発揮されたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における分離対象元素である貴金属元素への適用には至っていないものの、従来法では不可能であった金属イオンに対する高い抽出能力および分離性能を発揮させつつ、第三相を生成させない新規フルオラス抽出系の開発に成功した。分子レベルでのより本質的な議論には至っていないものの、様々な分析手法により新規フルオラス抽出系の優れた性能の要因を推定した。また、金属イオンの内圏だけでなく外圏における凝集(分散)構造を観察するための基礎的なデータは揃いつつある。以上のような理由からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に開発した新規フルオラス抽出系を貴金属元素の分離に適用し、その抽出・分離性能を評価する。さらに、紫外可視吸収スペクトルや広域X線吸収微細構造スペクトルにより金属イオンの内圏に関する情報を取得するだけでなく、中性子小角散乱法やX線小角散乱法を駆使し、金属イオンの外圏における凝集(分散)構造の解析も実施する。最終的に、新規フルオラス抽出系の優れた抽出・分離性能および第三相を生成しない要因に関して、数オングストロームから数百ナノメートルまでの幅広い空間スケールでの理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、2021年度に参加を予定していた国内外の学会が中止、延期、またはオンライン形式への開催方式変更となったため、学会参加に係る費用について、当初計画に比べて支出額が減少したため、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、2022年度分研究費と合わせて、研究に使用する物品の購入に係る費用や研究成果発表に係る費用として使用する。
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