研究課題/領域番号 |
21K17914
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
勝原 光希 岡山大学, 環境生命科学学域, 助教 (60898328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 都市生態学 / 遺伝的多様性 / 存続性 / ツユクサ / 近交弱勢 / 開花フェノロジー |
研究実績の概要 |
現在世界中で進行している都市化に伴う人口地の増加は、在来植物の生育地の喪失、縮小化や分断化を引き起こし、生物多様性に負の影響を与えることが知られている。都市環境下の在来植物種集団においては、特に遺伝的多様性が低下していることが多く報告されており、今後そのような集団では局所絶滅のリスクが増加していくことが懸念される。本研究では、里山域から都市域にかけて分布している在来一年生草本ツユクサを用いて、都市化に伴う集団の遺伝的多様性及び存続可能性の低下の関係について調査を行う。さらに、野外データや栽培実験を組み合わせ、遺伝的多様性の低下が都市集団の絶滅リスクを増加させるメカニズムについて明らかにし、保全生態学の基礎を担う知見を得ることに加え、生態系の保全や管理に関する新たな示唆を得ることを目的とする。 計画の初年度となる本年度は、岡山市北区の中山間地域と都市地域から調査対象集団を選定し、開花量調査・結実率調査・来年度以降に向けた種子のサンプリングを行った。特に、都市地域におけるツユクサの繁殖生態の実態を明らかにすることを目的に、2つの中山間地域から約200集団、2つの都市地域から約40集団について全開花期間(7~10月)にわたる経時的な開花量調査を精力的に行い、開花フェノロジーの集団間比較に取り組んだ。これらの結果から、都市環境下におけるツユクサの開花フェノロジーには、それぞれの地域の違いだけでなく、側溝内の集団や道路脇の集団、あるいは農地の集団かといった、局所的な成育環境の違いが大きな影響を与えることを明らかにした。これらの成果は、繁殖成功や集団の存続性に対しても周辺の景観要素と局所的な成育環境が同時に影響を与えることを示唆しており、多様な局所環境を内包する都市生態系での植物のふるまいを理解するうえで重要な知見であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の通り、本研究課題は野外調査と栽培実験を組み合わせて進めていくことを計画している。当初予定では初年度となる本年度から野外からツユクサの実生を採取して栽培を開始する予定だったが、実生の採取時期にあたる5月に県下に緊急事態宣言が発令されたことを受けて、学内外での研究活動が強く制限されたために、栽培実験の開始体制を整えることが叶わなかった。現在は、秋ごろに今年度調査を行った集団の一部から成熟種子を採取しており、次年度からの栽培実験の実施に向けて準備を進めているところである。その点において、現在までの進捗状況は当初予定より遅れがあるといえる。 一方で、上述のように、特に中山間地域と都市地域のツユクサの開花フェノロジーの集団間比較から、本研究課題と関連する興味深い成果が得られている。これらの成果は、研究対象とする集団の選定作業として行っていた野外調査から着想を得て行われた研究から明らかになったものであり、本研究課題が当初検証を目的としていた仮説とは異なる着眼点の上に立つが、都市環境下におけるツユクサ集団の存続可能性とその決定要因を明らかにする上で重要な進展を与えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に選定した調査集団の来年度以降のモニタリングを継続するとともに、当初の研究計画にのっとって栽培実験を開始することで、都市環境下におけるツユクサ集団の存続可能性と遺伝的多様性の関係について明らかにすることを目的に研究を進めていく。また、今年度新たに着想を得た開花フェノロジーに関する調査も当初予定していた遺伝的多様性からのアプローチと組み合わせていくことで、より統一的に都市環境下におけるツユクサ集団の存続可能性や絶滅リスクを理解することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月末に予定されていた日本生態学会の福岡大会が新型コロナウイルスの感染拡大を受け急遽オンライン開催へと変更となり、その旅費として計上していた旅費が不要となったため生じた。翌年度の旅費への計上を計画している。
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