研究課題/領域番号 |
21K17928
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
千葉 知世 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 准教授 (80751338)
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研究期間 (年度) |
2021-02-01 – 2026-03-31
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キーワード | 海洋プラスチック / 海洋ごみ / 海岸漂着物 / サーキュラー・エコノミー / 環境ガバナンス / 政策デザイン |
研究実績の概要 |
本研究は次の3つの研究により構成される。研究1「日本の海洋ごみ政策の変遷と現代的課題の把握」、研究2「海洋ごみが及ぼす地域社会への影響とその対策に関する実態解明」、および、研究3「理論的・実践的検討に基づく政策オプションの提示」である。2023年度は、まず、2022年度に得られた研究成果のうち、ボランティア等によるごみ拾い活動の実態と意義についてまとめ、学術誌に投稿した。査読を経て、現在修正中である。次に、研究2および研究3について次の2つの新規調査を実施した。第一に、海洋ごみが地域住民に与える社会的影響に関する調査である。大阪湾は大半が人工護岸されているため、わずかに残された湾口部の自然・半自然海岸において海岸漂着物が集中的に観察される。そうした地域では海岸漂着物による地域産業への影響、それによる地域住民への心理的影響があると考えられる。そこで、地域住民を対象とした聞き取り調査を実施し、質的データ分析法に基づいて主要な影響に関して考察した。結果、観光業への悪影響に対する懸念や、上流都市域から流出したごみによる悪影響に対する不満感や不公平感の存在が明らかにされた。第二に、企業によるボランティアごみ拾いの活動実態調査である。 2022年度に実施したボランティア等によるごみ拾い活動の実態調査により、ボランティアごみ拾いの実施主体としての民間企業の存在が浮かび上がった。そこで、民間企業のごみ拾い活動に関する意義を企業の社会的責任論・価値創造論の観点から整理するとともに、活動動機を聞き取り調査により明らかにした。結果、業種や企業規模による活動目的や意図の異なりが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の休業による研究中断期間の発生の影響により研究が予定より遅れた。その後研究期間の延長申請を行い、1年間の延長が決定された。2022年度以降、当該休業による研究の遅れを取り戻すことに尽力し、2022年度に比較すれば当初予定に対する差分を縮めることができたが、依然として理想的な程度まで進められたとは言えない。具体的には、昨年度実施した二つの質問紙調査の成果について、2023年度中に論文発表ができなかった。加えて、 当初(採択時)の研究計画では実施を予定していなかったが、研究を進める中で新たに重要と考えられる調査事項が出てきたこともあり、研究の着地点について若干の見直しが必要となった。具体的には、本研究は具体的な政策オプションの提案までを目標として見据えていたが、調査を進める中で、想定以上の問題の多面性、背景や利害関係者の多様性が明らかにされ、限られた調査結果に基づく巨視的視点からの提言が空疎に終始することが懸念されるようになり、研究対象の限定化を検討している。2024年度は、これまでの研究成果の発表に注力するとともに、研究の到達可能点の再検討を実施していく。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度に実施すべきことは以下の3つである。①着地点の見直し:本研究課題は、閉鎖性海域(大阪湾)の全体における海洋ごみ問題に対する有効な政策の検討という提言型の目的を有する研究として当初計画した。そのためには、地域固有の問題や制度と利害関係の総合的・構造的把握が必要であり、主に研究2の遂行によってそれを目指していたが、調査を進めるごとにそれまで見えていなかった新たな問題側面が発見され、此度の研究期間・資源で得られる情報に基づき政策デザインを議論しても社会的意義が希薄であると思われる。そこで、2024年度には研究の焦点を限定したうえで着実な成果を上げられることを重視していく。現時点では、政策デザインの中でも閉鎖性海域の海洋ごみに関するアリーナとアクターの関係性、すなわち海洋ごみによる地域社会への影響とそれに対応するアクター間の役割分担・連携に注目していきたいと考えている。②研究成果の論文化:現在投稿中の原稿に加え、2022年度に実施した沿岸域自治体に対する質問紙調査の結果の発表、および研究1に関する成果の論文化を進める。③沿岸域の住民や事業者に対する社会的影響に関する追加調査:2023年度調査から対象を拡大し、より多面的な影響を記述する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施を計画した質問紙調査が関係者事情と研究計画変更により中止となったため、その分の経費が浮いた。また、海外学会での発表を検討していたが育児事情等により叶わなかったため、旅費執行額も当初計画より少なかった。これまでも育児中の研究活動をサポートしてくれるアシスタント人材を探していたが、なかなか見つからずにいた。研究遂行にはアシスタント人材が不可欠であり、来年度は調査補助員を雇用しチーム形成していくことに一層注力したいと考えている。
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