研究課題/領域番号 |
21K17932
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
本巣 芽美 名古屋大学, 環境学研究科, 特任准教授 (40714457)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 洋上風力 / 再生可能エネルギー / 社会的受容 / 配分的正義 / 社会的公正 / 地域便益 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、再生可能エネルギー事業における受苦受益の不均衡問題を、地域への便益の還元から解決を図り、地域に資する再生可能エネルギー事業のあり方を考案することである。本研究では洋上風力発電事業を研究対象とし、2022年度は2021年度に続き文献による研究資料の収集と事業関係者への聞き取り調査に加え、海外事例調査を中心に行った。 文献調査では、新聞記事や会議議事録などから地域便益に対する地域住民の反応について調査した。また、洋上風力発電に関する市民グループのSNSにおいて、どのような問題認識があるのかも補完的に調査した。加えて、地域住民や漁業関係者に対して聞き取り調査を行い、経済的な地域便益に対する賛否の意見や、地域便益のメニューの決定方法についてなど、計画段階でのプロセス全般について調査した。 海外事例調査では、ドイツのAgora Energiewende、BNE、Mediators、DGRVなどを訪問し、ドイツでの洋上風力発電事業における論点、再生可能エネルギー全般におけるメディエーターの役割、合意形成手法、利益分配、環境共生型のプロジェクトなどについて調査した。調査の結果、ドイツでは単なる配分的正義の是正を目的とした便益の還元ではなく、営農型や環境共生型といった地域の課題解決につながるような事業のあり方が進められていることがわかった。また、地域との合意形成においては、メディエーターやコミュニケーターが重要な役割を担っており、膠着状態を変化させる工夫やステークホルダーとの対話の工夫などについて聞き取りをした。 これらの調査結果の一部は、日本風力エネルギー学会での座談会や学会誌の特集号にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度の前半は、新型コロナウィルスの影響により2021年度に続き調査の出張を控えたことから、当初の計画より聞き取り調査の進捗が遅れた。しかし、2022年度の後半からは、オンラインによる聞き取り調査やドイツでの事例調査を実施でき、主に次の2点について調査を進めることができた。第1に、地域便益に関する住民の認識である。日本の洋上風力発電事業では、基金を通して地元への経済的な便益の還元が定着しつつある。しかし、その還元率が変わったことで地元からさまざまな意見が出るようになり、受容性を左右する一因となっている。基金の使用用途や地元経済の維持の観点から、基金について検討を加えることが重要である点が示唆された。また、浮体式のプロジェクトが実施されている五島市では、特に漁業者に対する支援が実施されており、それが地域からの受容性を高めていることが改めて確認された。今後は、漁業者以外の地元住民に対する便益についてさらに調査を進めることが重要である。第2に、自然共生型や生物多様性型といった地域環境の保全に関する事業とその認証についてである。ドイツでは再エネ事業の認証が一部の地域で進められおり、本年度の調査ではその仕組みと導入事例について調査することができた。以上より、今年度の進捗状況を「(3)やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は本研究の最終年度であるため、データの収集が不十分な点については早期に調査を実施する。特に漁業者以外のステークホルダーに対する便益や、便益に対する地元での賛否の意見について調査する。また、2023年度は研究の取りまとめを行うとともに、セミナーや学会での研究報告を積極的に行う。2023年度前半には風力発電の社会的受容に関する国際セミナーを計画しており、本研究の成果の一部を報告する。さらに、セミナーにて海外での洋上風力発電事業をめぐるステークホルダーの認識や、海外での便益の還元手法について情報収集し、日本での応用を検討する。洋上風力発電の導入が拡大しているドイツでは、漁業に関する課題よりもむしろ海洋生物への影響や不発弾の撤去などが重要な課題となっており、日本とは異なる問題群がある。また、ドイツでは視認できないほど沖合に洋上風力発電所が建設される例が多く日本の状況とは異なるため、日独比較しつつ日本でも応用可能な点を整理し、本研究に反映する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により出張を控えたため旅費が予定より余り、次年度使用額が生じた。調査及び学会旅費として使用する予定である。
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