本研究の目的は、再生可能エネルギー事業における受苦受益の不均衡問題を、地域への便益の還元から解決を図り、地域に資する再生可能エネルギー事業のあり方を考案することである。本研究では洋上風力発電事業を研究対象とし、2023年度は主に社会的受容をテーマとした国際セミナーの開催、洋上風力発電所の地域便益に関する住民調査を行った。 国際セミナーでは、IEA Wind Task 28の海外研究者、風力発電の業界団体、エネルギー政策に関するNPO団体などを招き、国内外の風力発電の現状と課題解決の取り組みについて情報共有する場を設けた。同時通訳によるハイブリッド形式で開催し、150人程度が参加した。セミナーでは、日本における風力発電の地域からの受け入れに関する研究報告、洋上風力と地域共生に関するワークショップの報告に加え、海外研究者からは、主に米国と欧州における洋上風力発電事業を取り巻く社会的な状況などの報告があった。 洋上風力発電所の地域便益に関する住民調査では、すでに洋上風力発電所が商用運転を開始し、地域への便益の還元が行われている事例を対象にアンケート調査を実施した。調査の結果、事業者が行う地域共生策を認知している回答者はそれほど多くはなく、また、洋上風力発電所が建設されたことによる地域の変化については、「変わらない」と回答する割合が高かった。この結果から、事業と直接的な関わりが薄い一般的な地域住民にとっては、現状では地域便益の効果はそれほど大きいとは言えず、また、多くの風力発電施設が建設されても、良い意味でも悪い意味でも地域が変わったとはほとんど認識されていないことが確認された。 地域便益が受苦受益の不均衡を是正できるとしても、一般的な住民にとってはそれを認識しにくい状況となっている。地域に裨益する再エネ事業の導入のためには、その乖離を減らすことが今後はさらに重要となると考えられる。
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