研究課題/領域番号 |
21K17946
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
清水 玲子 武蔵野大学, 環境研究所, 客員研究員 (10869217)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 持続可能 / 天川村 / 文化 / 暮らし / 環境破壊 / 災害 / 少子高齢化 / 林業 |
研究実績の概要 |
天川村では文化財一覧を作成する等、村内の文化財の把握には努めている。一方で、Webで検索すると「キャンプ」が上位に来るほど、キャンプ場・バーベキュー場が乱立している。大きな資本ではなく、村外の小資本による開発のため、統一性はなく景観を著しく損ねる結果となっているものの、COVID-19による観光客激減への対策として受け入れてきた経緯がある。天川村の文化の基底を形づくるものは、村の面積の98%を占める山岳にある。修験道は日本独自に発展した仏教であり、その聖地大峰を頂く天川村は修験道と共に発展してきた。文化財を護るということは、財を価値づけている文化そのものが持続されなければ、最終的には文化財の意味が理解されない、或いは、伝えられない社会へと変質していくが、天川村においてもその傾向は顕在化し始めている。修験道関係者の宿泊地として栄えてきた洞川地区は、以前は「大峰洞川」という地名であったが、現在は一般観光客に向け「洞川温泉」と改称している。そこで、この問題の解決のために村内で活動している方々にヒアリングを実施し、また、現地調査を行い、天川村の社会課題(構造的少子化/地産地消の欠如/線形型経済構造/人材不足/情報不足/郷土教育の欠落/自然環境の破壊/災害復興の遅れ/空き家の増加/住民の無関心、等)を抽出した。さらに、天川村立小中学校に設置を企図していた郷土室について、デジタル上に置く方法を見出すことができた。 ヒアリングおよび調査を実施先は、以下の通りである。 村内:天川村教育委員会・教育委員長大西氏/一般社団法人天川村フォレストパワー協議会・代表豕瀬氏/一般社団法人天河斎庭・代表井頭氏、植樹祭 村外:吉野郡殿川地区(元地域おこし協力隊吉村氏)/大阪国際大学(早川准教授)/カタルーニャ公開大学(林田講師)/神奈川県相模原市緑区青根地区(あざおね社中/麻布大学・村山准教授)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度のCOVID-19感染拡大による自粛は、2年度目は縮小されたものの、経済活動以外の取組に対して積極的な協力を求めることは非常に難しい状況にあった。天川小中学校がへき地校大会の開催校であったことから、学校関係者との直接の接触は天川村教育委員会の承諾を得ることは叶わず、へき地校大会への参加のお願いは快諾いただいたものの、結局、COVID-19による参加者数の縮小により直前に関係者外からの出席は許可されないことになった。2年度目も学校との関係構築に至らなかったことが、一番大きな理由である。しかしながら、申請書を書いた時点は、COVID-19前の状態を見据えたものであったことから、遅れを取り戻し、研究の目的を達成するために、COVID-19後の新常態を加味して調査研究の方法を見直すなどを行い、遅れを取り戻しつつある。 また、本研究を始める前は見えていなかった事柄が顕在化し、それに応じた軌道修正も必要になり、そこに時間を要したことも遅れの要因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
天川村の社会課題(構造的少子化/地産地消の欠如/線形型経済構造/人材不足/情報不足/郷土教育の欠落/自然環境の破壊/災害復興の遅れ/空き家の増加/住民の無関心、等)が明らかになったことから、これらに関して「文化」を切り口に解決する手段を探るべく調査研究を進める予定である。天川村の98%が山岳であり、戦後の政府の指導により森林の多くは植樹林となっているが、安い輸入材にとって代わられ、現在はほとんど利用されずに放置されている。杉檜は針葉樹であるため、谷側に比重があり、かつ、根のはりが浅く、そのため、土砂災害を起こしやすい。平成23年9月の台風12号により、山体崩落が起き天ノ川が堰き止められ、坪内地区には山津波が押し寄せる結果となったが、同年3月に東北地方太平洋沖地震があったこともあり、行政から災害復興とは位置付けられず、未だに、復旧工事が遅々として行われている状況にある。(一社)天河斎庭では天河大弁財天社の杜を復活するため、針葉樹林を天河の広葉樹に植え替える活動を進め、村内でもその成果は認められつつあり、今回、台風12号により被災し、小中学校合併により廃校となった校舎の活用を推進することになった。当該法人と協働して、活用案を提案することになった。廃校舎の活用を通して、社会課題のいくつか(例えば、地産地消の欠如/線形型経済構造/人材不足/情報不足/郷土教育の欠落/自然環境の破壊/災害復興の遅れ/住民の無関心 等)の解決の道筋を探っていく。天川村の価値化されていない自然資本を活用し、社会資本、文化資本へと転換を図ることを目指し、調査研究を進める。 また、当初の予定であった天川村立小中学校の空き教室を活用した郷土室の設置を、デジタル郷土室へと転向し、具体的な設計のため実証について、9月の実施に向け準備を推進する。天川村に合った手法やアプリ開発を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度繰越金が生じた理由は、初年度の繰越金を2年度目で回収しきれなかったことにある。しかし、本研究に関して強固に協働できる団体が現れたこと、および、郷土室をインターネットの中に展開する手法が見つかったことにより、3年度目は大きな進捗が見込めるものと考えている。 以下について必要に応じて、出張旅費/学生アシスタントの雇用/天川村にあったアプリ開発/RPA(Robotic Process Automation)の実験的活用/実証時に使用する機器備品の購入・レンタル/会議室および機器備品のレンタル、等を支出する予定である。 <1.廃校舎の活用提案書の作成と実現に向けた調査と実証>天川村の杉檜を活用し、その良さを伝えるアンテナショップ/図書室および学習ルーム等の整備/天川村食材を主に活用したレストランおよびデリ等の開店、等に向けた調査と実証の実施<2.デジタル郷土室・人材育成情報プラットフォーム設計に向けた調査と実証>デジタル郷土室設計のための実証イベントの開催と準備、また、人材育成のための情報を収集プラットフォーム作成に向けた調査<3.天川村住民ビジョン作成ワークショップの実施>天川村を今後どのようにしたいと考えているか、住民の意向を探るワークショップを実施<4.グリーンツーリズム推進における環境教育教材の作成に向けた調査>天河大弁財天社から弥山に通ずる参拝ルートの新設に合わせ、登山者への環境教育の必要性を調査
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