研究課題/領域番号 |
21K17946
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
清水 玲子 武蔵野大学, サステナビリティ研究所, 客員研究員 (10869217)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 天川村 / 文化 / 教育 / 少子高齢化 / 持続可能性 / 社会教育 / 博物館 |
研究実績の概要 |
天川村の人口はCOVID-19感染拡大前に1,200人を下回っている。2020年度の国税調査における高齢化率では、全国1,964自治体のうち49位である。村内に高等学校がないため中学校卒業後に子どもたちは村外に自動的に転出してしまうため、「15才未満」は96人8%、「15才~34才」は92人8%、と若年層が減少している。近代は林業により村が発展したものの、現在、林業への従事者が激減する中、それに代わる産業は育っておらず、観光業にシフトしようとしているが未だに箱もの行政が中心のため、観光を推進している洞川エリアでさえ人口減少は止まっていない。また、村内で冠婚葬祭もままならないなどコミュニティも崩壊へと歩んでいる。そのような状況下で、文化財の保護と活用を進めるためには、天川村の抱える課題を理解し、一体的に対策を考える必要があることから、村の社会課題の整理を行った。その結果、高等学校がないことにより子どもたちが村外に流出する構造的な少子高齢化が、全ての課題の根底に横たわっていることが確認された。村自体が消滅すれば、文化財により伝えられてきた文化も消滅してしまう。しかしながら、少子化の問題を解決する方法が容易に見つかるものではない。そこで、エストニアの外国人も国民として電子登録できるバーチャル国籍制度に倣い、村民に加え、転出した元村民、さらに、「天川村推し」も巻き込んで、天川村に対する感情移入を醸成し、バーチャルな範囲にまで住民を拡大することで、文化の保全の可能性を探ることにした。そのプラットフォームとして、郷土室をデジタル化して活用することについて研究を開始した。天川村教育委員会に協力を仰ぎながら、資料蒐集の方法として、デジタルマッピングの可能性を探るための調査として体験イベントを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響も含め当初の予定通り進めることは難しい状況にあったため、手法の変更を模索した。天川小中学校内ではなく、デジタル空間における郷土室の開設へと転換を試みている。地理的位置を目印として、位置に関する情報を持ったデータを総合的に管理・加工し、視覚的な提示を可能にする技術である、地理情報システムによる一般向けサービスが急速に拡大する中で、この技術の活用を検討している。このため、データ蒐集方法の一つであるデジタルマッピングについて、有用性を検証するために、体験イベントを実施した。以前より、天川小中学校との連携を目指して、天川村教育委員会との対話を重ねてきた結果、チラシの配布、天川小中学校との交渉、イベント当日の会場及び備品の手配等様々な支援を受けた。アプリ制作を依頼したDigital Science Shop of Azabu Universityのメンバーと共に、アプリに設定する項目やネットワークの接続環境などの事前調査を行った上で、今回はGoogle AppSheetで作成したアプリを入れたiPad miniを用意し、誰もが気軽に参加できるよう参加者所有のデバイスを使用しない形をとった。デジタルマッピングという言葉がまだ一般的なものではなく、チラシだけでは何をするのかが伝わらなかったことから、天川小中学校に事前に資料を配布して理解の促進に務めた。イベント後のアンケート結果は、概ね肯定的な意見を得ることができた。地域の生き字引のような人たちの持つ知識も資料化することができ、また、歴史と言うと古いものという意識が強いが、今を記録することも可能なことが認められた。つまり、対象が何であれ我々が生きた時代の史料になり得ることから、デジタルマッピングによる資料蒐集はデジタル郷土室への足掛かりとなることが検証された。
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今後の研究の推進方策 |
天川村における少子高齢化は、高等教育機関がない等の構造的な要因も大きく、その結果、子どもたちは生まれ育った村と地理的にも精神的にも切り離され、人生の節目において生まれ故郷で生活するという選択肢はなくなりつつある。ここに変化をもたらさない限り、少子高齢化を解決することは不可能と言える。子どもの頃の鮮烈な記憶はその後の人生において様々な影響を及ぼすが、何の変哲もない日常は記憶の奥底に沈んでしまう。この生まれ育った地域における日常の記憶に触れることが容易になれば、消えた記憶と共に忘れ去られてしまう思いをつなぐことを可能とし、生まれ育った地域は過去のものではなく、成長する子どもたちの傍らに存在し続け、再びそこで暮らそうとする動機付けにつなげることができるのではないだろうか。そこで、生まれ育った地域との結びつき、或いは、感情移入をどのように生じさせ、育み、持続させるかが鍵になる。高等教育を受けるために生まれ育った地域を離れざるを得ない子どもたちに、ふるさとへの感情移入を持続させるためのツールとして、地域にある学校も含む住民の手により運用可能な郷土室をデジタル化し実装することを目指す。郷土室とは、昭和初期に学校内に設置された子どもたちが蒐集・調査した郷土資料の展示室のことで、これをデジタルに置き換え、インターネット上に設置したいと考えている。そして、デジタル郷土室の開設と運用そのものに住民に深く関与してもらう仕組みを作ることで、生まれ育った地域への興味関心を喚起させ、増幅させ、感情移入を誘引させることが可能になると考える。また、社会教育機関である博物館がなくても、村内に残存する文化財も含む文化の痕跡をデジタル郷土室において蒐集することにより、地域の文化や風習を守り伝えていくことにもつながる。さらに、地域をバーチャルな空間に拡大することで、少子高齢化への対抗策も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度繰越金が生じた理由は、COVID-19感染拡大により初年度の予定だった調査の実施が、次年度以降にズレ込んだことと、対象の天川村の状況が提案書時点より悪化してしまったことが大きく響いている。令和6年度は、以下の調査を実施する計画である。 ①天河大弁財天社、柿坂宮司へのヒアリング調査(5月実施)②天河大弁財天社お田植祭の取材(5月実施)③日本地方自治研究学会「自治体行政に求められるデジタル時代の地域づくり」にて研究の推進④日本地方自治研究学会第41回全国大会(9月)にて③の結果発表⑤奈良県明日香村へのヒアリング調査(交渉中) また、令和4年度及び5年度に集中して行った調査研究のまとめの期間が必要であるため、全体のまとめと今後の方向性について考察をさらの進める予定である。
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