本研究は、インドネシアを事例に、スハルト権威主義体制から現在の民主主義期におけるポピュラー音楽の発展過程を、軍の役割に着目して考察することを目的 とする。本考察を通じて、1998年の体制崩壊と民主化が同国のポピュラー音楽文化に与えた影響だけでなく、民主主義時代になぜ非民主的な構造が温存されて いるのかを、音楽実践者たちの政治権力への依存構造から解明していく。 具体的には、ミュージシャンの公演において軍ビジネスがいかに絡んでいるのか、あるいは軍用地のライブ会場への転用などを通じてミュージシャンたちは軍権 力といかに対峙しているのかを分析する。その考察の過程で、スハルト権威主義体制から民主主義期にわたり「文化表現の抑圧者」とみなされてきた国軍が、 じつは音楽文化の発展を下支えする役割を果たしている可能性を提示する。これは単なるインドネシア大衆文化史の記述にとどまらず、ポピュラー音楽実践から みる同国の現代政治構造の分析、そして〈文化と政治〉の普遍的議論へと向かい、新たな比較文化・政治研究に地平を拓く。
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