研究課題/領域番号 |
21K17955
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
土井 智義 琉球大学, 島嶼地域科学研究所, 客員研究員 (60802402)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 沖縄近現代史 / 移民史 / 植民地研究 / 市民権 / 日本人意識 / 非琉球人 / 西表島の炭鉱労働者 / 在沖奄美出身者 |
研究実績の概要 |
米国統治下(1945-72年)の沖縄では、米軍関係者を除き、市民/外国人の区分が日本国籍ではなく沖縄県籍で規定されていた。そのため、強制送還の適用を受け、諸権利から排除された「外国人=非琉球人」に沖縄県籍をもたない日本国籍者も含まれていた。本研究は、非琉球人となったこの非沖縄県籍の日本国籍者(本土籍者)を対象に、かれらが取り組んだ諸活動(相互親睦、権利獲得要請、準領事機能等)と集合意識の関係を歴史学的に実証する地域研究である。 研究の目的は、以下の3点である。1.本土籍者を在沖奄美出身者とその他に大別し、後者は特に現地人口比が高い西表の炭鉱労働者に着目し、各々の具体的な活動やその利害や表明された集合意識を再構成する。2.研究で得た資料やインタビュー等を記録する。3.かれらが非琉球人として「エスニック」化せず、市民である沖縄県籍者(琉球住民)と同じ「日本人意識」を維持・再構したことを踏まえ、復帰運動などを対象とする既存の沖縄現代史の成果と比較し、米国統治下沖縄の「日本人」の再編を歴史化する。 本研究の実施内容は、1.人口動態の把握、2.在沖奄美出身者の活動主体に応じた活動の実態解明、3.奄美以外に本土籍者(西表の炭鉱労働者等)の検証、4.上記に基づく「日本人意識」の再生産の分析である。 2021年度は、新型コロナ感染拡大のため海外での資料調査もできず、また当事者へのインタビューも容易ではなかった。そのため計画に従い、文献調査を中心に、1.米国統治下に実施された国勢調査を利用し、各市町村別の本土籍者数・割合の把握(奄美/その他別)、2.西表炭鉱労働者の資料調査(八重山の新聞や文献)、3.在沖奄美出身者による活動(特に奄美会の陳情)の調査を行った。これらは本研究の基礎的な事実を明らかにする意義があり、また奄美出身者の集住性や階層による分極化がみられたという意味で重要な成果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究課題は、戦前から米国統治期までの人口動態および各市町村における人口比の調査、また在沖奄美出身者と西表炭鉱労働者に関する基礎的な資料収集と分析を行い、並行して聞取りを実施することであった。 「研究実績の概要」に述べたように、2021年度は米国統治下の国勢調査を利用し、各市町村別の本土籍者数・割合の把握(奄美/その他別)、2.西表炭鉱労働者の資料調査(八重山毎日新聞などの新聞記事や文献)、3.在沖奄美出身者による活動(特に奄美会の陳情)の調査を行った。陳情については、現在陳情書に添付された署名簿を使用し、署名者の居住地・世帯・ジェンダーを把握するようリスト化している。これらは本研究がまざす本土籍者の諸活動を分析する上で基礎的な事実を明らかにする意義があり、また奄美出身者の集住性や階層による分極化も示唆されつつあるという意味で重要な成果であった。 しかし、新型コロナ感染拡大のために非琉球人を経験したひとびとの聞取り調査とその記録化には、ほとんど着手することができなかった。また、戦前の人口調査を実施することができておらず、大日本帝国政府が行った国勢調査および沖縄県の調査を収集し、戦前期の人口動態を把握する課題が残されている。 上記のように若干の遅れがあるものの、聞取り調査を除き、課題の進捗状況はおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針は、原則として申請時の計画に基づき、2022年度は、在沖奄美出身者の団体と諸個人のあいだの矛盾(強制送還への対応等)等の分析、そして西表炭鉱労働者の関係者への取材、および資料収集を行い、研究ノートの執筆に取り組む予定である。2023年度は、在沖奄美出身者と西表炭鉱労働者、団体と個人、諸団体・個人間の比較分析を行い、活動主体の各レベルでの要求と集合意識のあり方を分析し論文の執筆に取り組む。最終年度である2024年度は、琉球住民主体の復帰運動の「日本人意識」と比較し、米統治下沖縄の集合意識、とくに「日本人」として自己画定した主体の形成に関する総論を執筆する。加えて、本研究が非琉球人となった本土籍者の経験の記録化も重視しているため、聞き取り調査は通年で実施する。 なお、次年度以降も予期せざるを得ないこととして、新型コロナ感染拡大による対面での聞取り調査が難航することが予想される。したがって、これまでのように新聞記事や人づてでインフォーマントを探すだけではなく、SNSを含むインターネットを利用してオンラインで調査可能な当事者を募集することを検討している。また、そのほかの予期しないこと(とくに新型コロナや政治的な理由で、米国での文献調査が困難となる等)が生じた場合、日本国内での文献調査を中心化する。その際、全国の奄美出身者の郷友会とコンタクトを取り、沖縄の奄美会の特質を研究するなど、多少の研究課題の修正を行う予定である。 また様々な陳情書の署名者のリスト化などは、科研費を利用して、作業を委託し、データ作成の効率化・迅速化を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、今年度は新型コロナ感染のため、沖縄県公文書館・沖縄県立図書館・国立公文書館・国立国家図書館等、日本国内における公文書館等の利用が厳しく制限された。また、2021年度の研究計画で最も大きな予算をかけて行う予定であった米国国立公文書館新館での資料調査が実施できなかったため、使用額が大きく制限されることとなった。上記の理由から、次年度使用額が生じた。 次年度(2022年度)では、新型コロナの感染が落ち着き、米国への渡航が容易になり次第、この「次年度使用額」をあてて、米国において約一か月ほど滞在し、「本土籍者」に関する文書等の関連資料調査を実施する予定である。
|