研究課題/領域番号 |
21K17963
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
東 智美 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (70815000)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海外農業投資 / ジェンダー / 小規模農民 / 出稼ぎ労働者 / ラオス |
研究実績の概要 |
本研究は、ラオス北部の中国企業の投資によるバナナ農園への出稼ぎ労働をめぐって、海外農業投資が小規模農民の暮らしに与える変化をジェンダーの視点か ら明らかにすることを目的とするものである。海外農業投資が急激に拡大する「グローバル・サウス」の農村社会の展望を見通す上で、出稼ぎ労働が女性や家庭内・村落内のジェンダー関係に与える影響を明らかにし、ラオスにおける農業投資の政策的課題を提言することを目指している。 2022年度は、8月にラオスを訪問し、調査体制の再構築を行った上で、ウドムサイ県において5日間のフィールド調査を行なった。パクベン郡G村のバナナ農園への出稼ぎ経験がある11家族への半構造化インタビュー、フン郡S村のバナナ農園における非構造化インタビューを行なった。村との往来が比較的容易で、家族の帯同が可能な近隣の郡のバナナ農園への出稼ぎは、山岳部の小規模農民にとって参入障壁の小さい現金収入源となっている。一方、児童労働の敷居が低く、幼児やその世話をする祖父母などの高齢者も農薬による健康被害のリスクに晒されており、農園の労働者キャンプで日常化している麻薬の蔓延も出稼ぎ労働者の家族に深刻な負の影響を与えている。また、出稼ぎ労働の担い手が、比較的体力のある学齢期を終えた10代・20代に移っていき、健康被害のリスクの高い年契約の労働者は、より遠隔地の村から雇用されるようになっていく傾向が見られた。 これらの成果は、東南アジア学会の研究大会(12月10日)において「ラオスの国内労働移動が小規模農民の暮らしに与える影響ー中国投資のバナナ農園への出稼ぎ労働者家族の事例から-」と題し報告した。また、日本アフリカ学会中四国支部主催のシンポジウム(3月25日)では、「東南アジア地域研究 農村社会学からのアプローチーーラオスとタイの農村から考える『グローバル・サウス』」と題する報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は新型コロナウイルスの感染拡大状況を受けて中止した現地調査を実施することができ、研究実績の概要に示した研究成果を上げることができた。日程の都合上、予定していたウドムサイ県サイ郡における、行政機関(県農林局、計画投資局、天然資 源管理局等)へのインタビュー調査は実施できなかったため、2023年度に持ち越す。 パンデミックで現地を訪問できなかった期間に、カウンターパートであるラオス国立大学林学部の人事異動等があり、調査協力体制を再構築する必要に迫られたが、2022年8月と2023年3月の訪問で、次年度(2023年度)も調査を行える体制を整えることができた。また、現地の研究機関や市民社会組織とのネットワークも再構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、タイをはじめとする近隣諸国における国内労働移動についての先行研究との比較研究を行った上で、8月に再度、フィールド調査を行う。フィールド調査では、(1)バナナ農園での出稼ぎ労働前後のジェンダー関係の変化についての聞き取り、(2)出稼ぎ労働を選択しなかった家族についての調査、(3)国境を越えた出稼ぎ労働(主にタイへの出稼ぎ)を含むその他の現金収入手段の選択肢との比較を行う。また、ウドムサイ県サイ郡における、行政機関(県農林局、計画投資局、天然資 源管理局等)へのインタビュー調査も実施する。2024年2月にフォローアップ調査を行う予定である。 研究成果を国内の学会で発表するとともに、英語論文にまとめ投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の研究は概ね順調に進められたものの、2021年度に新型コロナウイルスの感染状況の拡大を受けてフィールドワークを実施できず、資金を繰り越したことから、その一部が次年度使用額として残ることになった。繰越額は、2023年度の調査費用に加え、支出する予定である。
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